【お話】心を隠しました。
あの方にいただいた、赤い薔薇。花びらの一枚を詩集にはさんで、わたくしの心も隠しました。
もらったステキコーデ♪:2
かわいい妹のような存在。ただそれだけ。
赤い薔薇が欲しいと言ったら、
摘んできて、渡してくれた。
でも、その意味なんて、知らないでしょう?
たった一人の人のために、
若い男性が、赤い薔薇を一輪だけ、捧げるの。
女性ならだれでも憧れる、
物語の中の王子と姫君の、永遠の愛を誓う場面ね。
それなのに、あの方ときたら。
あっさりと手折った花を、あっさりと手渡して、
そのまま、さっさと行ってしまった。
笑ってしまったわ。
知らないのよ。
わたくしが何を思って、
どんな願いを託して、欲しいと言ったのか。
きっと、最後まで、知らないままね。
笑って、笑って、涙が止まらない。
だってもう、時間切れなんですもの。
明日、わたくし、正式に、
婚約が決まるのですもの。
今日が最後で、でも、
最後まで、あの方にとってのわたくしは、
かわいい、ちょっとだけわがままな、妹に過ぎなかった。
それがわかった。わかってしまった。
それだけの話、なんですもの。
空回りも良いところだわ。おかしすぎるじゃない。
だから、ほら。涙が。
止まらないの。止まらないのよ。
もう少し、泣いて。
一区切り、ついたら。
ページに花びらをはさんで、押し花にしましょう。
そうして、わたくしの心を隠しましょう。
明日には、きれいな笑顔で、婚約をお受けする。
そうして嫁ぐのが、わたくしの役目。
家と家を、国と国を、
つないで平和を、もたらすために。
そのために、生まれた。そのために、育てられた。
それでも、、、
わたくしは、愚かな娘。
いつか、誰かがこの本を見つけて、
はさんである花に首をかしげたとしても、
きっとその時には、わたくしは。今のわたくしとはかけ離れてしまっている。
こんなことがあったことすら、忘れているのかもしれない。
それでも、
あの方が渡してくれた、この薔薇を。
捨ててしまうことが、できないの。
今のわたくしには、できないの。
だから、ここに。隠して行くわ。
捨てたのではなく、隠したという、事実が。
今のわたくしには、自分を強くするための、支えになるのだから……。
***
貴族や王族の女性は、家や国のために嫁ぐのが当たり前。という、ファンタジー世界の小さな、表に出ないまま終わった恋。和平交渉のために、婚約が決められるお嬢さま。
薔薇が欲しいと言われて手渡した男性はたぶん、最後まで気がつかないで、おめでとう! とお祝いしてる。