ネクラーソフ「赤鼻の酷寒(マロース)」抜粋
マーシャは父親にさけぶ
──父ちゃん、あたいもつれてって!
袋の上からとび下りて──ころがった
父はだき起こした。《泣くでねえ!
すりむいた──あぁに、たいしたことねえだ!
むすめっ子は俺(お)らにゃ手に負えねえ
もう一人、あんなわんぱく小僧を
春までに、おっ母、生んでくんな!
《あんなこと!》 妻は恥ずかしがった──
あんたには、一人でたくさんじゃないか!
(だが、承知していた、おなかの中に、もはや
胎児がうごいているのを……)《いいよ、
マーシャ、何でもないよ!》
そこでプロークルシカは荷馬車の上に
マーシャをのせていっしょにすわった。
グリーシウハもとびのって
大笑いの中に荷馬車は動き出す。
仔雀の群れが藁束からとび立ち
荷馬車の真上へ舞い上る
ダーリュシュカは長いことみつめていた
陽ざしを手でふさぎながら
子どもたちと父親が わが家の煙っている
納屋の方へ近づいて行くのを
藁束の間からは子どもたちの紅い顔が
かの女に向かってほお笑んでいた……
あれ、唄が! ききおぼえある唄のひびきが!
歌い手の声のすばらしさ……
苦しみの最後のしるしが
ダーリヤの顔から消え失せ
歌声にこころうばわれ
ただうっとりとするのであった
夢にきく 歌の声にもいやまして
気もちよいものが、またとあろうか!
何が歌われているのか──神のみぞ知れ!
わたしはことばがききとれなかった
だが、歌は、心の渇きをいやし
この世なる しあわせの限りが そこにある。
そこには同感の おだやかな愛撫が