海渡る 霾(つちふる)まとう セセリチョウ
海渡る 霾まとう セセリチョウ
「霾」は俳句の春の季語
日常的に使うことのない漢字で
馴染みがない言葉
紀元前に作られた甲骨文字にあり
奥の深い文字で
このひと文字でたくさんの表現をしている面白味がある
黄砂が突風に巻きあげられ
砂塵や土砂暴風となって大陸を渡り海を渡ってくる
病気を運び、生活を脅かし
人は家の中に引きこもる
「つちふる」から想起するのは埃っぽい春の季節の不快感や
不安感
「霾」は「バイ」からなり、生贄を捧げる祭祀。
人間の飢餓感が作りだした生命連鎖への傲慢な「祈り」
西の空を覆い押し寄せてくる土色の大気は不穏
そろそろと探りよせる
子どもの頃、春の嵐に涙目になったり
喉を傷めたり、ひどくなると高熱が出て
学校を休むことが多かった
薄暗い朝や夕方の庭にはセセリチョウが飛び回っていた
蝶々と言えばひらひらと跳ぶきれいな色の翅に憧れていた子ども時代
土色のからだに鱗粉を浮かせて
びゅっと飛び回るセセリチョウが嫌だった
セセリチョウが好きになったのは
海を渡る蝶だと知ったあと
セセリチョウのまっくろで大きくて丸い瞳は黒曜石のように深い黒
早く病気が治らないかなと思う気持ちを慰めてくれた
セセリチョウはアジア大陸の西からやってくる
セセリチョウの多くはジェット機のような三角の翅を持ち
ものすごいスピードで空を飛ぶ
小さなセセリチョウが
霾る海を渡るとき、土色のドレスをまとった精霊のように視える
昔、黄砂がジェット気流に乗ってくると知ったとき
抵抗しきれない諦めの大きさに心動いた
近年、黄砂はジェット気流よりももっと低い大気層から吹いてくる
という調査を聞いて、なんだそうだったのかと思ったものの
深刻な環境問題であることに変りもなく
防ぐ手立てもない
稲の害虫と言われるセセリチョウが海を渡るとき
土色の衣装がふさわしい
害虫と決めつける人間には計り知れない蝶の働きがあるやもしれず
地球が宇宙を廻ることで起きる霾が運ぶ豊かな地味は
肥沃な大地や海洋に貢献しているかもしれず
精霊と化して春をうたう
日本の空に押し寄せる「黄砂」と海をわたるセセリチョウを重ねた
2020/5/28
返句として詠んだ句ですが
返句した相手から「季重なり」という指摘がありましたので
書き留めておきます
「季重なり」について一言
季重なりは原則禁止ではありません
5・7・5の一字一語を大事にするには
同じことを重ねることはない
一字一語の意味の深さを考えるため
推敲を奨めるための技術です
この句にあるせせり蝶の「蝶」は春の季語ですが
有名な論争に芥川龍之介の夏を詠んだ句に「蝶ゼンマイ舌」の句があります
蝶と一語で書けば春の季語ですが
「セセリチョウ」とすれば春から秋に飛ぶ蝶として詠めます
春を詠む句にも明らかな季重なりともならず
春の意味合いを強調することができます
わたしが返句をした理由は
めったに使わない文字「霾」に惹かれたのと
この方が季重なりを17音のうち10音使っていたので
季重なりに挑戦しているのかと誤解しました
大潮
2020/05/31 18:28:28
アヴィさん
そうでしたか
コメントありがとう
ストレスの高い季節の日常生活
「霾」という文字が何千年も伝わってきたことに
感動しています
久しぶりに文字を楽しむ時間を過ごしました
アヴィ
2020/05/31 17:30:28
そうじゃないですよぉ。誤解させてすみません。
乱立する結社のお話。
初期の結社が割拠、跋扈した時代からずっと俳句は各々の
イデオロギーを看板に他のカテゴリーにはないきな臭い…
言い換えれば結構エゲツナイ論争を繰り返しているのは
ご存じの通りでしょ。
結社同士の覇権争い。結社内での後継者争い。
うんざりしますよね。
そのことをなぞったに過ぎません。
余計な気を遣わせまして申し訳ありませんでした。
今後ともよろしくお願いいたします。
大潮
2020/05/31 14:34:11
アヴィさん
俳句を喧嘩の道具にするのは哀しいことですね
このコメントの意味がつかめず振り返りまして
アヴィさんにお返しした句が「喧嘩」になっているのなら
取り下げます
失礼しました
アヴィさんもわたしへの俳句の投句をおひかえください
それから他の方の日記でお目にかかることがあると思いますが
そこは楽しい俳句のコミュニケーションということで
他の方に不愉快な思いをおかけしないように
いたしましょう
よろしくお願いいたします
アヴィ
2020/05/30 15:31:56
大潮さんの句で黄砂のようにセセリが海渡りをするのを初めて知りました。
国内だけと思っていました。
津軽海峡だけでなく日本海を渡るのですね。@@;
アヴィ
2020/05/30 15:10:05
一文字セセリは私の庭によく来ます。
一番馴染みのある蝶かも。三角ジェットのような、頭でっかちの
姿がいいですね。
私も結社が大嫌い。
私に手ほどきをした祖母は口癖のように
「短歌は良いけど、俳句は喧嘩だからほどほどにね」
と言っています。
私の俳句はドイツ語で育った私の日本語のリハビリです。
大潮
2020/05/27 20:25:34
ありがとう~
実は、わたしは俳句界は嫌いなんです
師弟制度と選民階級社会が匂うから
そういうものに侵されていない
言葉の面白さや詠む人の純粋さで
歌うように言葉が連なってしまう句を見ると
自分も書きたい~とわくわくします
詠んだ人がこの文字にこの言葉にどんな思いを託したかと
気持ちを添うことができたら、すてきな体験です
人の句を読んで思うところあれば、
自分の句にまとめ
返句するのが俳句のいいところですが
面倒くさがり屋の大潮には苦手なところでもあります
セセリチョウはあまり知られていない蝶々です
蛾のように視えるから人気がないんですかね
春から秋にかけて薄暗い時間帯に飛び回ります
「霾」という文字もあまり知られていないから
取り合わせとしていいかなと思いついてしまったのが
うんのつき
人が一目見てわからない句は
自己満足の句だと考えています
セセリチョウはかわいいですよ
春の夕方ピンク系統の花に集まります
秋になると稲に集まります
以前、お部屋改装でセセリチョウをつくろうと思ったら
蛾ジラみたいになっちゃいました
今度は稲アイテムがあるからもう一回チャレンジしたいです
しまの
2020/05/27 17:41:52
大潮さん、俳句詠まれてるのですか!(@□@)すごい!
漢字のお話も、興味深いし、私はムシの類には疎くて、セセリチョウの名前を聞くのも初めてで、たいへんおもしろく読ませていただきました^^
春の、うららかなイメージとは裏腹に、おそろしさと、美しさがあいまった様子に、自然のダイナミズムを感じました♪