ガラクタ煎兵衛かく語りき

病院裏通りのチビ

日記

チビは猛犬だとその界隈で怖れられていた(と聞いている)
当時は首輪さえしていれば何の問題もない時代だった
リードなどという言葉はなく
極寒の地で飼われていた犬達は
夜間を過ごす屋外に設置された犬小屋から離れると
昼間は勝手気ままに歩き廻っていた


でも猛犬などという呼称は多分買いかぶりだと思う
だって
六歳の僕を
尻尾を振れ千切れんばかりに歓待してくれた
彼(彼女)の笑顔に
猛々しさは一顧もなく愛らしさのみが表出されていたんだよ
(チビが雄だったのか雌だったのかを教えてくれる人はもう誰もいない)



彼(彼女)は吠える犬だと周りから認識されていた
でも僕には吠えなかった
何故なの?


六歳の頃である
魚の骨を最終的にヒトは食べない
下手に食べようとすれば口腔内に刺さるし痛いし
たとえば塩引や焼鮭の背骨
飼っていた鶏の(ダシに使った後の)胸骨
その他モロモロ


調理食事後のディスポーザーという概念はないという言い訳なんだけど
それでも
自分(達)が食べきれなかったものを
尻尾を思い切り振って
笑顔で食べてくれるチビという存在を
病院裏通りで待っていてくれてるチビという存在を
僕は大好きだったんだ





ああ大失敗!




これじゃまるで生ゴミ処理に可哀そうな犬一匹を利用しただけの
サディスティックな回想ではないかいな


そうなのか?
違うと思う




だって
周りには怖れられていた(他称)猛犬と
僕は仲良しだったんだ
多分お互い大好きだったんだ



チビ
チビ
大好きだ




母の御託宣により我が家では最初からペット禁止令が敷かれ続けていた
(おそらくは山羊や鶏でトラウマになったんだと思う)



姉三人のうち二人は
結婚後犬を飼う環境を自ら得てその権利を行使した
自分自身はキッカケを逃しペットとともに過した経験はない



それでも
今やYOUTUBE動画には様々な愛くるしい動物たちと
ヒトとの暮らしがアップされている
もうだめです
メロメロです
たまりません
好きにしてー



その映像の中にチビを探してしまう
チビの面影を探してしまう
真正面の視線を愛しいと思っている



あの硬い骨をガシィガシィと力強く噛み砕き
健康な歯茎を自己洗浄し
茶色の尻尾は扇風機と化し
その純粋な眼差しの中心に僕がいる




チビありがとう
美味しかったかな?
ちょっと硬かったかな?
また明日待っててくれるかな?






また病院裏通りで会おうね