わたしは夫を蛙論と呼びます
二人で取り交わしたカップルネームです

家父長制度を引き継いだ婚姻制度と戸籍制度を否定し
女を奥さんと呼ばせない
婚外子制度を撤廃する

行動する女のわたしにプロポーズした蛙論
このわたしに？
結婚してください？
誰だと思ってんのよ！！！わたしを～
婚姻届けなんて出すわけないだろう

と、すごんだものの
一緒に住みはじめてた蛙論と
はや20年

会社の人には「早く結婚してやれよ」
「かわいそうだろう」などと悪者扱いされ
わたしからは「それが差別だとなぜ言えない」と怒られ
家事育児介護ができない男はいくじなしと罵られながら
仲睦まじくやってまいりました

その蛙論が癌の宣告を受けたのが2年半前
あと2か月の命と言われてさすがのわたしも絶句
二人で荒川のそばで泣きました
そのあと、映画を二本観ました
映画の感想を珈琲を飲みながら話しているうちに落ち着いて
これからはやりたいことだけやりましょうと話はまとまり
やっと家に帰ることができました

そのあと、高齢だからと渋る医者を納得させ
食道がんの切除手術は成功したものの
一か月後に肺に転移
治験治療を2年にわたって続けてきました
一か月に1週間の入院治療と一回の通院治療
検査や点滴の苦痛に耐えるも
リンパに転移となり
医者から二度目の宣告となりました
あと持っても数か月
もう癌治療の手立てがない

そうですか
それなら命ある限り
自分で自分のことができるからだを保てるように
ラジウム鉱泉の療治に行きましょう

広い地球にはたくさんのラジウム鉱泉がわきでていて
わたしは30代からラジウム鉱泉巡りをし
30か所ぐらいは行っています
そのなかから
蛙論にいいと思える新潟県五頭温泉郷の村杉温泉を選びました

蛙論が歩けるうちに行きたい
そういうわたしの希望を受け入れてくれました
わたしたちの人生の旅の、終章の旅の始まりです

窓を開けると
小高い丘の林と庭園にすっくと立つ二本の大きな杉の木だけが見えるお部屋でした
ラジウム温泉に入り
穏やかに眠り
御飯をたべ
眠り
四泊のあいだ気持ちよく目覚めました
夜、窓を開けると
虫時雨

体調を見ながら自然療法の始まりです