【お話】カロリーなんて、知らないわ。
今日は自分にごほうび。ハーブの香る庭で、ビターなココアと甘いマカロン。カロリーなんて知らないわ。
もらったステキコーデ♪:20
今日は思う存分、甘いお菓子を食べるんだから。
ココアだけはビターだけれど、
クリームをたっぷり乗せてやったわ。
ケーキもビスケットもクランペットも、
どんと来いよ。食べてやる。
あー、思い出すわ。ここで食事したいって言ったら、あの馬鹿、無駄遣いはするなって言ったのよね。
それでいて、浮気相手とのデートは、ここへ来てたらしいじゃない。マカロンが人気だからって。
最低よね。
最低な男よね。
可愛くて頼りない、そんな女の子が好きですって?
わたしは気がきつくて、自分を立ててくれないから、論外ですって?
上等じゃないの、スカポンタンのクズ男。
家庭的な女性が好きだから、恋人には目立ってほしくない、って言われたから、地味な服装を心掛けたわ。
夜中に突然、友人を連れて帰ってきて、何かつまむものをと言われたら、間に合わせでもそれなりの料理を出した。
掃除も洗濯もわたしに丸投げ。それでいて、自分の友人たちには、わたしが気が利かなくて、家では何もしないって愚痴っていたのは知っているわ。
わたしの方が先に昇進してしまって、いらいらしていたのも知っている。
でもだからって、浮気はないでしょう。
式場の予約をするところだったのよ?
なのに浮気がばれたら、別れたいって。あっさり言われた。
『男を立てない気がきつい恋人』よりも、『自分を頼ってくれる、一人にしておけないお嬢さん』を大切に思うようになっていた、だって。
馬鹿じゃないの?
その年まで誰かに頼りっぱなしで生きてきた女よ?
まともに生活できると思ってるの?
男の前でだけの演技だったとしても、性格が悪いことは間違いないわ。ああでも、男より出世する男を立てない女より、そっちのほうが良いのよね。知らなかったわ。お人形遊びが好きな人だったなんて。
まあお似合いなんじゃない? 何にもしない、できないお嬢さんと、お人形遊びが好きで、自分が一番じゃないと不機嫌になる男の子。
わたしにはもう関係ない。
思い出すのもイヤ。ほんと、馬鹿。
彼はもちろんだけど、わたしもね。
あんな男のために頑張ってきたかと思うと、ついやしてきた時間と努力に、腹が立つ。
だから今日は、真っ赤なドレスを着てみたのよ。似合うのは知っているわ。彼が嫌がるから、今まで着なかったけれど。
ココアもケーキも、解禁したわ。男がバーで一杯やるのは許されるけれど、女が喫茶店や庭園で、お茶をするのは無駄遣いだって、何度も言われていたから、我慢していたのよね。今日はここのマカロン、全種類制覇するわよ。
自分のためにお金を使うの、何年ぶりかしら。最初は罪悪感があったけれど、
そう、わたし、
こんな風に日の光を浴びて、お菓子をつまんで、
花やハーブの香りに包まれて、のんびりするのが好きだったのよ。
時間とお金の無駄だって、彼には馬鹿にされたけれど。
そういえば、食事に連れて行ってもらったこともなかったわ。いつも家で、わたしが料理してた。よっぽどわたしには、お金をかけたくなかったのね。
でも、もういい。
もう終わった。これからは、
顔を上げて、好きなように生きる。わたしなりに。わたし自身の道を。
そういうわけだから、
ウェイターさん、お菓子とココアのお代わりを持ってきて!
***
最近流行りの? 婚約破棄風物語。
結婚をちらつかせながら同棲していた彼は、自分より仕事のできる彼女にコンプレックスを刺激され、浮気。
浮気相手の女性と結婚すると言い出す。
「彼女には、俺がいないとダメなんだ。君は一人でも大丈夫だろう?」
という、ありきたりなセリフで破局。激怒した彼女は、家を解約、自分の荷物を持ち去った後、二人の生活のために節約していたお金でぱーっと散財したのでした。
しかし、長年のふたりの付き合いを知っている友人やら知人やらから、今後、どんな目で見られると思っているんだろう、彼氏。
ファンタジーのライトノベルでも最近、この手の話が増えました。どれも似たり寄ったりで、数冊見たら、もういいや、な感じですが、
流行りのきっかけとなったんじゃないかな、という小説、
「魔導具師ダリヤはうつむかない」作者:甘岸久弥
これは今読んでも面白いです。ヒロインがしっかり自分の足で立っている。
相手への「ざまあ」(仕返し)は、最近の小説ではどぎついものもあって、「さあ、みんなでいじめをしましょう!」と言われているみたいな気がするのですが、
この作品では、ダリヤという女性が、人間として顔を上げる、立って歩きだす、という点が強調されており、
魔導具という品物を作り出す、職人としての楽しさや、周囲の人とのつながりなどが重要視されているため、陰険な感じはありません。
コミックスにもなっていますが、漫画家さん二人が別のところから出していて、話の解釈がちょっと違うので、
コミックスを買うときは評価とか見てから、決めたほうが良いです。