人形のこと
そのむかし、まだ子供の頃に買ってもらった人形は、
ガラスケースに入ったものでした。
たぶんわたしが望んだものを買ってくれたんだと思います。
どういう経緯でそうなったのかは分かりません。
でも、望めばなんでも買ってもらえる様な
経済状態では無かった気がします。
わたしのものというよりも、家の飾りとしても
少し外れたものだったと思います。
つくりもそう高価なものではありませんしたが、
場違いな印象はあったかも知れません。
けれど、長くそこにあって、繰り返し引っ越しても
捨てられずに飾られていました。
わたしの帰る場所を示していたものでした。
わたしの子供の頃の憧れとか、
思いの方向を示す存在だったと思います。
今はもうありません。
でも、決別したわけでは無いと思います。
わたしのこころのなかにまだあって、
ときどき思い出しています。
憧れにとどかなくとも、わたしは前に進むことが出来る。
そう思います。