ジュリエンヌ

さくらいろ・・・いつか見た櫻 その2

日記

数年後、少年は青年となり大学の医学部を卒業することになる。

卒業記念に青年の友人が山にハイキングに彼をさそったのである。

最初は気が進まなかったが、ゴリ押しに負けて行く気になってしまった。

出発地点からグルッと1周するコースである。

季節も春、ぽかぽかと暖かくて気持ちがいい。

コースも半分以上過ぎたが、普段青年はスポーツとかすることもないので

みんなより遅れぎみになって行った。

「すぐ追いつくから先に行っててくれ」と言って後から青年がついて行く形になった。

下向き加減で歩いて、ある場所で背伸びをして後ろを振り返った途端

青年はそこから動けなくなってしまった。

そして青年の目からは涙が溢れ出した。

まさにその場所は、少年の頃彼女と楽しいひと時を過ごした、あの峡谷と寸分違わない風景だったのである。

遠くの山々は桜が咲き誇って、彼女と初めて語らいあった時の景色と同じである。

そんな馬鹿なことがあるはずが・・・

と思いつつも、いつも自分が座っていた場所に座って、遠くの山々に咲く桜を見ていたが、何かを感じて隣に目をやると、何とそこに彼女が座っているではないか・・・

青年はしばらく金縛りにあったかの様であったが、半ベソ状態で

「こんにちは、久しぶりだね」と、声をかけた。

彼女は何も言うことは無かったけれど、その目は

「立派な大人になったわね」

と語りかけていた。

そして、嬉しそうに微笑むと消えてしまった。

青年は嬉しいやら悲しいやらで、しばらく混乱していたが、

我に返ると立ち上がり、「また来るね」と言ってその場を後にしたのである。

そして月に何度かその峡谷に行くようになった。

そうしているうちに、段々とそこの部落の人達とも知り合いになり、

その部落に診療所があることがわかったのである。

数年後

青年はその診療所にやって来たのである。

今、青年には彼女の姿が見えるのだろうか。

そして、

「いってくるね」

そう言って今日も何時もの様に出勤して行く青年。

そうです、誰も居ないはずの青年の部屋の2台のPCのひとつは

今でも峡谷に微笑んでいる彼女が座っているのです。