仮想劇場『孤高の旅人』
独りを感じずに済むのなら
それでいいと彼は言った
本質的な部分はさておき
人ごみにまみれながら彼は生きる
心の支えを必要としていたわけでも
同じ顔を持つ儚い人を探しているわけでもない
自然体で存在するには世界があまりにも眩しすぎたから
日陰者の烙印を背負ったほうが幾分も楽だと考えていた
泥水のなかで蓮は純粋な酸素を吸う
そして水面上にだけ美しい花を咲かせる
穢れの底でしか生きられない人は確かに存在する
彼もそんな一人なのだと僕は思った
報われるのに必要な養分はどこに行けば手に入るのだろう
人それぞれに行く道が違うのだから明確な答えなどどこにもない
孤高や難行、苦行の果てにその救いは現れるのか
報恩と報復の日々に急かされながらも人は健気に生きていく
様々な仮面をつけながら今日も僕は町の片隅に立つ
行き交う人々の轍の中に何かしらの答えを探し求めている
そして孤独と背徳と贖罪を一途に背負い続けながら
いつか報われる日を夢見て娑婆の穢れの中にじっと身を潜めているのだ
ロワゾー
2021/05/16 17:23:22
中原中也おもいだす語り口ですね。
文章に滲む淡々としたドライな感傷と、語彙選定センスが好きです。