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29冊目、読了。

日記

「望郷」  湊 かなえ  著


短編小説 6篇からなっている。
みかんの花、海の星、夢の国、雲の糸、石の十字架、光の航路と
どれも瀬戸内海の白綱島を背景に書かれている。

日本国そのものが島国なのだけれど、さらに小さな島である白綱島であるから、閉鎖的な人間関係からでる「しがらみ」みたいなものが表現されていると思う。
誰もが想像するのどかな島生活、田舎ならではの近所づきあい、地味ながらも幸せな生活を。しかし、そういう生活ばかりではないことを知らされる。

最近の小説には、よくいじめに関する話が多い。それだけ現実にも増えているからなんだろう。。大人では「誹謗」、「中傷」、「窃盗」、「暴力」は犯罪になってしまうが、子供同士では「いじめ」という重みのない言葉でごまかされる。ひらがなで書くと子供たちの意地悪の延長でしか受け取れないけど、「虐め」、「苛め」と漢字表記すれば、子供でも人として誤った行為だということが強く認識できるのではないかと書かれている。確かにそうかもしれない。未来のある子供だから、まだ、発達途上の子供だからと大人の優しい許容があるのだろうが、悪い事の意識がない分怖いと思う。そういうものこそ、大人が小さいうちからしっかり教えなければいけないことだと思う。大人も忙しさのあまりかまっていられない、これが現状か。

最後の小説「光の航路」で主人公の教師である父親の言葉が心に残った。

進水式で船出する新しい船は、皆に祝福されて航海に出る。人間も一緒で「とつきとおか」待ちわびて生まれてきた赤ん坊に、願いを込めて名前を付け、夫婦、家族みんなで喜び合い、希望を託して広い世界に送り出す。
そして、大海に出た船は、己の役割を果たしながら海を進むように、人間もまたそれぞれの人生を歩む。海が荒れることがあるように、人間の人生にも嵐がある。送り出したものは(親)助け舟を出せる時もあるが、すべての航路に寄り添うことはできない。教師としての役割は、僕がいる海(学校)を通過している船を、嵐で沈まないように船どうしを連結させたりして、守ることだと思っている。どんな船(いじめの加害者)だって他の船(被害者)を沈めることは許されない。
進水式の船と同様、自分も祝福されて送り出されたことを思い出してほしい。苦しくても簡単に死にたいなんて思わないで欲しいと諭してくれたのではないかと思う。

前にも書いたが、結末は想像してくださいとばかりに匂わせているだけで、はっきり書いてないものが多い。読者の想像力を試しているのだろうか。