32冊目、読了。
「52ヘルツのクジラたち」 町田 そのこ 著
2021年本屋大賞 第1位 受賞作品。
52ヘルツの鯨(52ヘルツのくじら、英語: 52-hertz whale)は、正体不明の種の鯨の個体である。その個体は非常に珍しい52ヘルツの周波数で鳴く。この鯨ともっとも似た回遊パターンをもつシロナガスクジラ[1]やナガスクジラ[2]と比べて、52ヘルツは遥かに高い周波数である。この鯨はおそらくこの周波数で鳴く世界で唯一の個体であり、その鳴き声は1980年代からさまざまな場所で定期的に検出されてきた。「世界でもっとも孤独な鯨」とされる。通常、鯨は15~25ヘルツ程度の周波数で鳴くという。回遊パターンが似ているというシロナガスクジラの場合も、10〜39ヘルツとのこと。(ネット検索より)
つまりは、「世界で最も孤独な鯨」に例えた人間たちの話である。主人公の女性キナコこと貴湖(キコ)、自分と同じような境遇と感じた少年52こと愛(いとし)。この頃の小説は、いや現状がこういう時代だからこそ、多く取り上げられるようになったのだろうと思うが、肉親の虐待やトランスジェンダーの人権を交え考えさせられることが多い作品だった。
子供は、親に虐待されたりすると逃げ場がない。じっと耐えて気まぐれの食事にありつくしか生きる道がないのだ。親の奴隷かおもちゃのようにならざるを得ない。こんな経験をしてきた二人を取り囲む人々とのかかわりを描いている。
人間は一人で行きたいと強がってみても、無理があると思う。誰かに話を聞いてもらいたいとか、気持ちを分かってもらいたいなど思う時が。52ヘルツでなく鯨は、同じ鯨の誰にも声が届かず寂しく回遊しているという。何時かはわかってくれる人が現れてくれるのではないかと探している自分のように。
友人の同僚のアンさんが言う「魂の番」となれる人が現れるように、それまで自分が守ってあげる。この人は女性で生まれたが心は男性であるトランスジェンダーで悩む人だった。でも、やさしく人の心に寄り添える人だったので、キナコには誰よりも大切な人となった。自分を奴隷扱いする母親から、また、騙した悪い男からも救ってくれたし、本当に愛する人はこの人だったかもしれないと思うようになった矢先、アンさんは自殺した。時代の背景がそうさせてしまったのか。
正義が正義でなくなる時代でも、もちろんしっかり足を地につけて生きている人も多い。そういう人たちのアドバイスを受け、52と自分の将来を考えていく。結局、自分一人ではどうにもならないことも力を合わせて考えていけば道は開ける。悲観することではないと思えるようになった。
たくさんの人との絆、あるに越したことはない人生を送りたい。