おうむたんの毒舌日記とぼうぼうのぼやき

ぼうぼう

しばらく、おうむたんが 毒舌はく日記になります(^^;。飼い主に責任はとれませぬこと、ご了承ください

自作小説「いじめられない子供」第九話(全九話中)

自作小説

第九話 クチナシユートピア


 クチナシ市からいじめが消失した。
 クチナシ市の子供階級のトップに立つのが紬である以上、いじめの発生は許されぬ不文律が醸成(じょうせい)されていった結果だ。
 
 紬は全く自覚してない。いじめの発生の芽を無自覚の力でねじ潰した。子供たちは自覚のないトップを遠巻きにして従っていく。
 大崎留美は紬の腰ぎんちゃくをやめた。うかつに近づくことへの怖れが身に沁みたのだ。

 橋本紬は、クチナシ子供社会の孤高なるトップに君臨する存在と化していく。

 いじめの消失した子供社会はクチナシユートピアと揶揄(やゆ)され、クチナシ市近隣の子供たちから囃(はや)し立てられるようになった。



 制服姿の荒木舞は、返却されたテスト用紙を持って着席した。中学生になって二学期の中間試験のテスト結果が紙に表示されて戻された。舞はため息をついた。
「また二番か」
 橋本紬の次元の違う優秀さに今回も粉砕した。これで何連敗だったっけ? しかし悔しさは次のばねになると舞は信じている。

「荒木さん」
 紬が舞を呼んだ。
「ん?」
「これ……」
 紬が差し出したのは、舞が見たことのない参考書だった。
「私に?」
 舞が問うと紬がうなづいた。
「あなたはライバルだから」
 舞は紬の目をまっすぐ見つめて言う。
「要は、同じ土俵で戦おうってこと、か」
 舞は苦笑した。いじめの現場を見つければ、自らを犯人だと言って、いじめの発生をつぶし、成績でねじ伏せよう画策する者を、同じスタートラインへひっぱりあげようとする。
 舞が持ちえない物を、紬は生まれた時から持っているのだと舞は思う。紬という重石が、作ったクチナシユートピア。
 紬がこの街を去ると同時に重石が外れる。
その時、クチナシユートピアは瓦解(がかい)するのだろうと舞は考える。しかしその未来が来るとき、自分はすでにクチナシを脱出できる力を備えているはずだ。その後、子供階級社会が再編成されたところで……。
 私には関係ない――舞は未来のクチナシ市の子供社会にかまっている暇はない、と思う。

 舞は、紬からの挑戦状を受け取った。パラっとめくっただけでわかる、難しい参考書だ。クチナシ市内には売っていない本だった。今のレベルでは苦戦するだろう、それでも、挑戦を受けてたつ、と舞は考える。
 大人になったらこの故郷を出て都会での生活を始めるのだ、遥斗の再会の約束も果たしたい、やりたいことは山積みなのだ。

 舞は大人になることに期待していた。クチナシユートピアとその後の子供ディストピアから脱出する、真のユートピアを目指して進むだけだ。
 紬もまた、未来を見つめていた。及川静香の庇護を離れた先の人生を夢見ている。

 舞が、紬に手を差し出した。
「行こうか!」
「うん」
 二人は駆け出した。


(おわり)

後書き
最後までよんでくださって感謝です。

紬のモデルは自分だ。
私は子供のときいじめられたことがなかった子供だった。大人になって初めて自覚したこと、それは「自分はいじめのターゲットになりやすい」性格であること、なのに子供時代いじめを受けたことがなかったことであった。
いじめも受けなかったが、友達もいなかった。

なぜいじめられなかったのか、改めて考えた時「親の社会的な力」が作用していたのではないか? この考えに行きついた。
一方で、自分はいじめたことがないと断言できない、とも思うのだ。
いじめた方は自覚もないし、忘れるものだ。

この話に出てくる舞は、いじめを自覚し、かつコントロールしていた節がある分、かなり特異な存在なのかもしれない。

さらに、自分が創り出したけれど、どうにも理解できないのが及川静香、だ。
彼女の若い時、または今後のお話に興味があるのだが、いかせんせん、想像もつかないし、理解の範疇を超えるキャラだなぁと思うのだ。

話を戻して、いじめをテーマにしつつ、いじめの描写のあまりない話を書き終えて思うのは。
いじめは時代に則して、人の横に潜んでいるということ、だ。

自分が弱くて、弱いからこそ、いじめに加担しないといえるか? おそらく生きている間、つきまとう疑問だと思う。

読んでくださった方々の解釈に委ねたいと思います。
何か思うきっかけであればいいなと思います。


#日記広場:自作小説

  • ぼうぼう

    ぼうぼう

    2021/09/08 15:42:04

    >Reimyさん
    初めまして! 読んでくれて感想まで頂いて、ほんとにありがとうございます。
    感想もらえることの方が、少ないのです。
    というか、書籍本でもない文章を、読んでもらえるだけで、嬉しいんです。

    感想が苦手と書かれていますが、
    >大人社会の小さな駒のように存在する子供たちの姿
    なるほど、と思いました。この視点は書いていて持ってなかった。
    及川静香は、特に、そうかもしれない、と改めて感じました。
    読んだ方の解釈が加わると、話はいろんな表情が付くのだなぁ、そう感じます。

    読んでる途中、楽しいとか爽快感を得られる内容ではない、そんなお話を読んでいただけて
    十分、有難いことだと思います。

    話に出てくる子供たちが大人びた思考と感じてもらえたのも、想定外で嬉しかったことでした。
    自分は、現実のこの世代の子供さんは、もっといろいろ考えているような気がしてならない
    のです。
    「この話、ぬるい」
    と思ってるんじゃないかな、と今でも思っています。

    小説は読んでもらった方が、好きに感じるものだと、私は思っています。
    ゆえに、読む方次第でいろいろな感じ方をしてもらえたら、これ以上嬉しいことはないと思います

    書いた方のストーリーを、読む側が頭の中にイメージしていく、この作業は、簡単なことではない
    はずで。
    だからこそ、読んで頭の中で、文字をシーンにしてもらえる、
    だから書いて読んでもらえる場所に掲載したくなるんですよね。
    ありがとうございます。





  • Reimy

    Reimy

    2021/09/07 23:23:16

    初めまして。
    ご挨拶が後回しになり申し訳ありません。
    アヴィちゃんからのススメで「いじめられない子供」を読ませて頂いていました。
    (完全、読み逃げで失礼いたしました。)

    どんな小説を読む時も、小説を書かれる作者さんの発想に感心させられます。
    能天気に生きてた子供時代の自分と比べ、登場する大人びた思考の子供たちに不憫さを感じてしまいました。あくまで私の勝手な同情なのかもしれませんが。
    読み進めながら終始、こういう物語の発想は多少は作者の経験に由来するところがあるのだろうかという疑問が湧きました。
    あとがきで、納得しました。
    大人社会の小さな駒のように存在する子供たちの姿に胸苦しさを覚えたけれど、最終話に彼らの未来へ臨む逞しい希望が見えてほっとしました。

    読書と感想文を書くのが非常に苦手(頭の中が纏められない)なので、このような小説の意図やテーマから外れる感想になってしまうことをお許し下さい。
    とても興味深く読ませて頂きました。
    ありがとうございます。m(__)m

  • ぼうぼう

    ぼうぼう

    2021/09/01 09:36:28

    >るぅさん
    読んでくれてありがとうございます。
    いじめはなくならない、と自分は思います。人は比較して技術や文化を得てきたと思う。
    その比較を取っ払うことは可能なのかなぁと思うんです。
    紬が大きくなった時も考えると、これまた、かなりひと悶着ありそうだなぁ、とも感じます。善意だけのモンスターを社会はどう扱うのだろうか?

    感想くれた方の結末の感じ方がいろいろで、「怖い」という方もいて。ホラージャンルにしようかと
    迷うこともあったです。
    読後感、読む方によって違うなぁ、と感じました。

    >アヴィさん
    ここまで読んでくれてありがとうございます。

    人が比較する、比較される、評価する、評価される、評価されない
    多分、なくならない以上、カーストや順位づけはなくならないのかもなぁと思うです。
    人間の業とか、そういう解決できない問題なのではないかなぁとも感じます。

    >トシrotさん
    読んでくれて、ほんとに、ありがとうございます!
    文字数的には、まとめてもいい分量を細かく区切ってしまったので、一気読みの方がテンポとれる
    と思います。
    自分だけ見ても、表裏一体というか、善悪の両面はあると思うし、付きまとう悪い感情は除去できない
    し。それがたくさんの方が様々な考えや思想で、その時代に依存する思考もあるし。
    一概に何かを良い、悪いと言えない、結局、
    >流れの護岸にポジションして、石を投げたり、ごみをすてたり清掃したり、そんなふうに生きているかもw
    はい、こんな感じで生きていくしかないよなぁ、と思います。
    小説は、結論がなくても終われる、そこが面白いなぁと思います。

  • トシrot

    トシrot

    2021/09/01 08:28:50

    面白かった。最後の3話が一気読みになってしまいましたが、逆にお話のテンポがあるところをそのとおり楽しめたかもw ぼうぼうさんやアヴィさんは、たぶんるうさんもニコッとで才媛のトップにあるみなさん。それぞれのコメントも含めて面白かったです。流れの護岸にポジションして、石を投げたり、ごみをすてたり清掃したり、そんなふうに生きているかもw

  • アヴィ

    アヴィ

    2021/09/01 00:04:32

    スクールカーストのただ中を経験した私は一つの真理に
    辿り着きました。それを「スードラの法則」と呼んでい
    ます。どんなに下位に位置する者でも必ず更に下位の存
    在を見つけ出し自分の優位を主張します。
    また、カーストが一つとは限りません。とても厄介なも
    のですぅ。

  • るう

    るう

    2021/08/31 20:51:19

    小説楽しく、展開を考えながら読ませていただきました。
    俯瞰した観察眼を感じるのは、ぼうぼうさんらしいなと^^
    紬は自覚は無いと言いつつも感性や周りの人たちの表情で
    自分の立ち位置を知っている。だがそれを表さない賢さも持ち合わせている。
    人は優劣をつけたがる、心が未熟なものも大勢いる。
    いじめはなくならない。生きていくのはなかなか大変です(^^;)