39冊目、読了。
「あんじゅう」 宮部 みゆき 著
三島屋という袋物を商売にしているお店の主人の姪、おちかを中心にしたお話である。短編が4作収まっている。
「変わりひゃく物語」という、不思議なお話を集めておりますということで、始まったわけであるが、本当は主人のおちかの立ち直りの為の優しい気持ちが行動となって表れたものであった。おちかは、いいなずけを殺され、また、殺した本人も幼馴染で良く知った人物であり、その後自殺した。自分の周りで起こった悲惨な事件で、心を閉ざしてしまった17歳の女性。ある出来事をきっかけに、誰にも言えないような打ち明け話を聞くことにより、心に変化が起きたのに気が付いた主人。おちかの人を引き付ける(話したくなるような)魅力を生かさないで置くことはないと始まった規格である。三島屋を題材にした本は他にも多数出ており、続いて読みたいなと思わせる内容だった。
第1章 逃げ水
第2章 藪から千本
第3章 暗獣
第4章 吠える仏
江戸時代の話なので、今では科学で解明できそうな話題もあるが、それぞれが人間らしくていいなあと思う話である。第3章の暗獣で、加登新左衛門がくろすけ諭した言葉がいい。「お前は孤独だが独りぼっちではない。おまえがここにいることを、おまえを思うものは知っている。離れていても仰ぐ月は同じだ。離れ離れになっても、それを支えと慰めに生きていこう。」と。
一人暮らしている今の人たちも、一人でいいからこう思ってくれている人を見つけて(たぶん両親は思ってくれている)生きる支えを持って欲しいと思う。