南の魔女クレア19
クレアが戻って来ると誰もが目を止めるだろうと思われる素晴らしいドレスを着たモニークがお菓子を食べている他の人とは離れてぽつんと立ってました。クレアも同じ様にお菓子を食べている人と離れてモニークの横に立ちました。何か話そうとも思いましたけど何も良い言葉も見つからず次第に二人ともうつむいて黙って立ってしばらくしました。
相変わらずダンスを踊るための音楽が聞こえ続けてました。其処にボルアートとダルニが「本当に『壁に張り付いた豪華な花だな」と声をかけてきました。自分達をからかいに来たと思ったクレアはボルアートをにらみつけて言いました。「私達をからかいに来たの!?」「とんでもない、君たちをダンスに誘いに来たんだよ。」「本当に!?」とモニークの顔が一瞬で明るくなりました。
クレアは二人がダルニの妹達を親に頼まれて連れとして招待している事をダルニから聞いて知ってました。「妹さん達は良いの?」「ああ、ちょうど相手のいない友人が二人いたんで彼らに預けて来たよ。」とダルニが言うとモニークの手を取って「せっかくの素晴らしいドレスが泣いているよ。さあ、真ん中に行って其のドレスを見せつけてやろう」と言うとモニークはダルニの手を握り返して此れ以上にない笑顔で頷きました。
ボルアートが「僕たちも踊ろう」とクレアの手を取りました。「私、あまりダンスは得意じゃないの。」と言うとボルアートが「僕が一番知っているよ。僕たちはあの隅の空いている所で踊ろう」とちょうどダンスの和が少し途切れている所を視線で教えました。
まるで二人の為に用意されたような場所で其処だとクレアが人にぶつかるかもと心配する必要はなさそうです。クレアも嬉しそうに頷いてボルアートに手を引かれて其れでも片方のては教えて貰った様に優雅にスカートのすそを少しつまんでついて行きました。
ゆっくりとボルアートがクレアをリードしました。しばらくするとボルアートが「音楽をきいて」と耳元でささやきました。くすぐったいと思いながらもクレアは音楽を聴く余裕が出てきました。「聞こえるかい?」とボルアートが言うので頷くと「リズムに乗って」とボルアートがまた耳元でささやきました。またくすぐったいと思いましたがリズムを聞いて其れに合わせてボルアートのリードに合わせました。
ボルアートがターンをすると自然にクレアの足が其れに合わせてターンをしてました。面白いとクレアは思ってボルアートの顔を見るとボルアートがにっこりと笑いました。ダンスってこんなにたのしかったの?とクレアは心の中で思いました。
しばらくしてクレアははっと我に返りました。そう最後のダンスはウィルお兄様が頼んでくれた人と踊らなくてはなりません。「私、あそこに戻らなくては」と言うと事情を知っているボルアートが何と踊りながら其の場所に戻って行ってくれました。
そして「壁の花席」の近くに来るとボルアートはクレアの手を取って口づけをすると「また此の次お会いできるのを楽しみにしております」と言うと去って行きました。
クレアは「壁の花席」に戻ってしばらくすると少しライトが薄暗くなり音楽が変わりました。
次が最後の曲だと言う合図の音楽です。
すると一人白いタキシードを着た青年がクレアの所に来て「お嬢さん、僕とダンスを踊って頂けませんか?」と言って手を差し出しました。クレアは教えて貰った様に「喜んで」と言うと優雅に彼の手の上にそっと自分の手を乗せました。彼にひかれて少し歩くと彼と向かい合ったのでクレアは一歩下がって優雅に軽く両すそをもちあげると挨拶をして彼の差し出した手にそっと手を添えました。
彼がクレアを引き付けるとクレアは彼のリードに合わせて踊り始めました。彼はクレアがダンスを踊れると解ると何度もターンを繰り返しました。クレアは其れこそ本当に羽が生えたように軽やかに其れに合わせてとびはねました。クレアのドレスが其の度にふわりふわりと揺れました。軽やかに素晴らしいステップを見せる二人は次第に周りの人の注目を集めましたがクレアはダンスが面白くて夢中で自分に何が起きているのかも解りませんでした。
最後は真ん中で二人のくるくると回るダンスにライトが当たって周りの人達も動きを止めて二人を見てました。やがて音楽が終わりステップが止まると我に返ったクレアは教えて貰った様に一歩引いて優雅に挨拶をして例の優雅に後ろ髪をひかれる様に見せる後ろを向き方をするとゆっくりと歩き始めました。
しばらく歩くと更にライトが暗くなりました。
この後はカップルになった二人が此れからの事を打ち合わせをする時間でした。
クレアは一生懸命「壁の花席」を探して見つけると今度は前と違ってゆっくりと其処に歩いて行きました。
席に戻るとモニークが待ってました。「クレア、お菓子、お菓子」と袋をもって合図をしてます。
そうです。クレアとモニークには此処に来れなかったクラスメートの為にクラスメートが用意した袋にお菓子を詰めて其れをスカートの下のパニエの中に入れて其れを気づかれないようにして外に出て学校が手配した馬車に乗って帰ると言う最後の仕事が待っていたのです。
モニークはクレア用の袋をクレアに手渡しました。「こんなに大きいの!?」とクレアは渡された袋を見て思いました。「壁の花席」のテーブルにあったお菓子は殆ど食べつくされてありません。二人は薄暗くなった事を良い事に他の席の残っているお菓子の残っているテーブルに移動してカップルが此れからの事を話すのに夢中になっている隙に其処のテーブルの上のお菓子を袋に詰めて回りました。
其れをカーテンの後ろに行ってかわるがわるにお互いを隠しながらパニエの中に袋を入れて其の上から袋を掴んで歩き始めました。重くて横歩きが精一杯です。モニークが兎に角外に出ようと言うので一番近くにあったドアから外に出ました。
とても歩ける様なもので無いのでクレアは周りを見て誰もいない事を良い事にパニエの中から袋を出して担ぎました。するとモニークも真似をして担ぎました。そうしないと重くてもって歩けないからです。
其れから二人は馬車がありそうな所を探して歩き始めました。
何処にも人ひとりいません。二人は一旦会場に戻ろうとしましたがどこのドアもしまっていて開いているドアが見つかりません。
「馬車が行ってしまったんじゃない?」とクレアが言うとモニークが士官学校と家の学校は近いから歩きましょうと言うとどんどん其の会場から離れて歩き始めました。
「ねぇ、お腹すかない?」とクレアが言いました。クレアはパーティ会場に付いてからジュースを飲んだだけで何も食べてなかったのです。モニークも同じでした。
二人は相談して少しぐらいなら袋の中のお菓子を食べて良いだろうという事になり座っては袋からお菓子を取り出して食べてはまた進んで座っては袋からお菓子を食べて進みを繰り返しました。
いくら言っても自分達が知っている道にたどり着きません。ついにモニークが自分達は道に迷っていると口に出しました。
此処はどこだろうと辺りを見渡しても同じ草原が月に照らされて続いているだけです。モニークは疲れ切っていました。ドレスが豪華な分、其れを支えるパニエも丈夫で重いのです。
次第に頑張り屋のモニークも口数が少なくなり髪もぼさぼさで目も映ろになってきました。