食わず嫌い
食わず嫌い
私は食べた事がないものを食べない主義である。
それで今までの人生で多くの美味の逸品を逃しているには違いない間違いなくそ う思う。
今に至るまでそれを後悔したことはないが、そういう主義になったエピソードを少し話してみよう。
私が幼少時の頃、父が生牡蠣を食べた後、寒い冬の廊下のトイレの前で、嘔吐を繰り返しながら、
悶絶していた様をびっくりしながらも覚えている。
締め鯖の時も同様だった。
(なんの種類の)飯寿司だったかは忘れたが、その時にも同じような事が起きた。
牡蠣も締め鯖も飯寿司も、本来子供の食べる食材ではない。
(いや、美味しく食べた子供は本当は日本中に沢山いるだろう)
しかし、私はその時心に誓った。
『今まで食べた事がないものは決して食べてはいけない。世の中には怖ろしいこ とが多すぎる!』
私が少年になって、姉から後で聞いた話によると、上記とは別の案件で、当時の北海道新聞の片隅に、
終戦期ではあるが炭鉱で栄えつつあるU市のとある家庭で、食中毒事件が発生し、その後ウンヌンカンヌン
(私が生まれる前だからよくわからない)という記事が掲載されたらしい。詳細は知らない。
姉から聞いただけだが、覚えていない。記憶から消し去ろうとしたのかもしれない。
おかげで私は紅生姜も福神漬もらっきょうも帆立も鮑も食べたことはない。
(正直に告白すると、明らかに先方に対して、失礼にあたる行動はしていないつもりなので)
(つまり少しは眉に皺を浮かべながらもチャッカリ食べているのかもしれない)
でもねえ、
でも、お母さんの作ってくれた八宝菜をもう一度食べたいよう。お腹いっぱい食べたいよう。
だって、昔いっぱいいっぱい食べた事があるんだから。
そして私も少しは(いやかなりすぎるほど)大人になりました。食わず嫌いと恰好をつけていた若さを
今では懐かしく思います。もう今では叶いませんが(流動食しか受け付けませんので)、ふぐ刺し、ふぐ鍋、
ふぐちりを、ひょっとしたらあの芳しい香りの締め鯖の生姜漬けを当てに食べたいと
思っていた今日この頃です。