ガラクタ煎兵衛かく語りき

慶子の話

日記


自室の窓を全開にして、枠の下に両肘をつきながら、流れゆく雲を見つめていた。
心地良い風が流れ込んできた。
青い空と白い雲。遠くに見えて、でも近くに感じた。


どこかで人の声がしている。何を言ってるかわからない。
穏やかな昼下がり。何の予定もない。何をすべきか決める必要もない。
わかっているのは、このあとも私は生き続けなければいけない、ただそれだけ。


私自身だけの問題じゃないことは数か月前に知った。
椎子は依然として姿を消していた。
愛子は眼鏡を封印し、白髪と透明な瞳で周囲の注目を一斉に浴びた。
瑛子はあの時以来家に引きこもっている。



空が低い。とてつもなく近い。
慶子は思わず、空に向かって手を伸ばしそうになった。
風が流れている。
空気が流れている。
いや、世の中のすべてが流れている。



手を伸ばしかけた慶子の体が、微かに窓枠に触れた。
その時、明らかに慶子以外の存在がそれに反応した。
慶子は思わずお腹に手を当てた。



椎子、帰ってきて。
愛子、話を聞いて。
瑛子、伝えたいことがあるの。








歐医師が所属している病院のカウンセラー室にある、
複数の電話のうちの一つが鳴った。

(あの時<未述>、愛子から電話番号は聞いていた)



「はい、恵須病院、カウンセラー室です」
電話を取ったのは、幸運にも愛子を担当しているカウンセラーの女性だった。



「助けてください」
「どうなさいました?」
「愛子の友人です。もうどうしようもありません。愛子に伝えて」




最早、日は暮れて、空に浮かんでいる雲は見えなくなっていた。
すでに風は止まっていた。
救急車とタクシーはほぼ同時に恵須病院に着いた。
救急車からは速やかに慶子が病院に搬入され、
一方、タクシーから、ショートカットの白髪を靡かせながら愛子が飛び出した。


椎子は実はその様をすぐ傍で見ていた。でも身動きができなかった。
瑛子はまだ世の中には帰れる状態ではなかった。
自分だけの世界にいたほうが幸せなことを予知していた。










登場人物


  瑛子
  椎子
  愛子
  慶子  (今回の主人公)

  カウンセラー




どうやって次の第4話で決着できるんだ?
少し日にちをください
困った困った