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2022-1冊目

日記

「希望荘」 宮部   みゆき 著


「聖域」「希望荘」「砂男」「二重身」  の4つの短編集であった。

妻と離婚をして、探偵事務所を開くことになった主人公杉村三郎。自分の探偵事務所(=家)は、私にとってホッとする場所、「聖域」であるといことからタイトルになったようだ。話はアパートの元住人は亡くなったと聞いたが、街中で見かけた。 本当にその人かどうか調査して欲しいとの話が舞い込んだ。結局宝くじが当たって、人に知られないようにアパートを出て、母親と娘のホテル住まいに至った経緯の捜索になった訳だが、何ともすっきりしない解決話であった。

「希望荘」は、父親が離縁されて住んでいたアパートの名前、生きる希望を持つようにとのオーナーの長いか定かではない。この話は、「人を殺してしまったことがある」という父親の言葉が、調査の依頼であった。実は自分の事ではなく思いやりのこもった犯人への優しさの溢れた言葉であった。それが分かるまでの細かい気付きがさすが名探偵と思った。

「砂男」杉村の故郷、山梨県での話。蕎麦屋「伊織」の若夫婦の関係、杉村の家族、親族の関係などの「血縁」というか選ぶに選べない血のつながりが、良い方向に行ったり、最悪の状態(家族の殺人)になったりの話だった。相手の本性も知らず気軽に行った戸籍の交換、若気の至りとはいえこれが自分の首を絞めることになった。妻の妊娠で以前の殺人の罪におびえる自分が、ヨーロッパのおとぎ話のサンドマンというつかみどころのない怖い魔物になってしまったような感覚に陥ったのではないかと思われる。蕎麦屋の夫は最後に自分の死を持って解決させてしまった。ちょっと悲しい運命で可哀想になった。

「二重身(ドッペルゲンガー)」は、もう一人の自分を見るとまもなく死ぬという現象の事だそうで、直接的にはこの事件には関係はなかったように思う。親がそのような経験をしたのち亡くなったので、同じ血筋の自分たち兄弟も見るのじゃないかと。行方不明になった弟を探すという話であるが実際は殺されていた訳で、そこに気づくまでの杉村の繊細な感覚がものを言った。探偵だから依頼があって動いたわけで、その依頼人の女学生との周囲の人脈がまた興味をそそられた。

優しさや身勝手さなどいろいろな人間の感情が読め、推理をしながらそれぞれの事情があるんだなと寄り添いながら面白く読めた。