ガラクタ煎兵衛かく語りき

JAPAN RISING その後

日記


 「なあ、お前は男なんだろう?」
箭兵衛は、そもそもの疑問を龍一に投じた。

 龍一は人型の形態で、札幌黄を頬張りながら、わざとじらした。
「どーっちだと思う?」
明らかに機嫌が良く、楽しんでいた。生命感に満ち溢れていた。


 場所は新日本大陸の、カリフォルニアに近い、復興途上の、
便宜的に4分割された中でひとまず、東北セクションと称された海沿いにある
一つの街だった。
あの、天平地異の最中、羊と、玉葱と、独特のフォルムを持つ、鉄の鋳型(鍋)が
(あと二つ忘れていた、ベルのたれと、ソラチのたれが
偶然それぞれ箱ごと漂着していて)
何千キロもの大陸移動にも耐え、その地域での新たな食文化を
必然的に築き始めていた。
海沿いなのでやがて海鮮丼とかが本来期待されるはずなのだが、
海の生き物の殆どは残念ながら死滅していた。


 大爆発は海底(ほとんど地中)で起こり、龍一の(箭兵衛にはわかってない)
武器は、そこで、とてつもない破壊力を起こした。当初、その力ゆえに、
龍一自らは道連れを覚悟したが、
己の力を発する直前、龍の身になっていた龍一は突然理解した『こうしよう』。


 相手は生身の、いや、本当の鯰ではなかった。今まで見たことがない。
生命体?機械?もしかしてエーテル?いや、未知の存在?!!!!!


 はっきり言って手こずった。戦いの後、箭兵衛の前で虚勢を張った
ホバリングはやっとだったんだ





 「お前の破壊力は地球を守った。まあ、破壊したというべきかもしれないが」
箭兵衛は、これから発言する内容を数日前から練習していた。
言い間違えてはいけない。龍一は友人だ。友を失いたくはない。
だから言葉を選びたかった。慎重に、口を開く。
「なあ、お前は男なんだろう?」



 「答えよう。そして理解して欲しい」
箭兵衛はそれを聞いて、オプションで頼んだ鯨肉の頬肉を食べる動作を止めた。

 「これから話すことは、お前と俺との関係だけじゃない。龍と人と、
何よりもそもそもその前に存在していた意識体という伝承でしか語られない、
生命以前の結合体を、俺は先人から聞いているんだ」

 我らが箭兵衛は残念ながら、口をアッポアッポするだけで、話についていけない。
それでも丁寧に、龍族の末裔は愛を込めて、ジンギスカン鍋を挟んだ、
龍一は《信用すべき人類の一人》に向かって、穏やかに告げた。

 「男とか、女とか、雄とか、雌とか、そんなの関係なく、
そもそも配偶体にとっては、単に有利に2倍体を、増やす、継続する、
変異を生み出す、そんな戦略性だけなんだよ。」





 アステロイドのシリカ製の籐椅子に座しているノーチャンスの女神は、
当然次の仕掛けを青い星に向かって、画策していた。
「いつまでも、こんな風に好き勝手にさせないわ」
「そろそろ、こんなモノローグも飽きられるわね(何より私自身のも)」



 爬虫類と龍は当然派生が違う。爬虫類の雌雄の分化は地球の環境内で、
限られた時間内で急激に行われた。
片や、龍は太陽系とは違う星系で、嫋やかな時を地球と比べると、
あまりにも優雅に過ごし、その結果、画期的な移譲作業が行われた。
そこでは、繁殖とか、増殖とか、繁栄という概念は存在せず、
数量より深化、表現より本質、現状より将来が求められた。


 箭兵衛は言った「意識体?結合体? いったいなんのこっちゃ?」
龍一は精一杯答えた。
「実は自分でも分からん。でも、今、生きてる。それには、
精一杯答えなきゃいけない。それが、命だ」

 龍一は掘っ立て小屋のようなジンギスカン屋のプラスティック窓
(ガラスは生産が間に合っていなかった)を振り返りながら、
最後の札幌黄をベルのたれにつけて最後に答えた。

 「俺は男かだって?そんなの知るか。単なる配偶体だよ!」



 箭兵衛は腑に落ちた表情で、最近近くの畑で偶然採れたという
ピーマンの一片をパリパリ食べた。
「帰るか?お前の好きな、なんて言ったかなネーバーなんちゃらで」
箭兵衛は笑顔で素直に頷いた。
ピーマンの頑固な嚙み具合を楽しみながら、テーブルに米2升の袋を置いて、
一人と一匹は窓から大日本大陸の片隅から夜空へと飛び出した。
龍族の癖なのか知らないが、いったんかなりの高さへと昇りつめ、
目的の地へと急降下する。


 一瞬カリフォルニア方面の暗黒や、南ア大陸の未だ治まらない
災厄(おそらく火事)が、視線をかすめる。
ネエーバーエンディーグストーーーリーー
こんな調べが太平洋のど真ん中に流れる。


 龍一匹と、人ひとりがもっと快適に住める住まいをつくらないと。
箭兵衛はそう思いながら龍にしがみつき眠りに落ちようとしていた。
龍は札幌黄でヘロヘロになりながら、髭をヒャラヒャラさせてながらも、
全ての羽毛で箭兵衛を落とさないように抱き、
とてもいい気持で帰途へと飛翔していた。





 油断が入り込むとすれば、この時をおいてないだろう。
それではまたの機会に。