まったり時間。

しの

ほんのり楽しい、まったり時間。そんな場所。

【お話】妖精の城と吟遊詩人。

コーデ広場


妖精の城に、迷い込んだことがある。

うっすらと混じる、輝きと闇の気配。光と影のあわいに浮かぶ、うたかたの世界。

こちらを見る、猛々しい戦士。きらきらしい奥方たち。

笑い声と、値踏みと。好意と好奇心。でも、かすかに響いてくるのは悪意かな。

美しく危険な場所。そう思ったよ。

実際、迷い込んだ挙句に気に入られて、百年も二百年もつかまったまま。みたいな人の話も聞くし。

向こうにとっては好意なんだけど、人間にとっては苦痛だったり、迷惑だったりするんだよね。

価値観が違うからなあ。時間の感覚も違うし。いろいろと。

うん、でも、ぼくは吟遊詩人だから。

お招きを受けたんなら、歌わないって選択肢はない。

相手が美と芸術の専門家みたいな存在であったとしても、

ぼくにできるのは、ぼくの最善を尽くすこと。

歌うこと。

それにより、命を、輝かせること。

それだけ。

だから、歌ったよ。

短き人の子の、命の歌を。

はかなく、けれどたくましく、

大地に根を張る、どこにでもある草のようで、

けれど時に、はっとするような花を咲かせる、

素朴で、

小さくて、

それが尊い、

人という、命の歌を。

気に入ってくれたんじゃないかな。

帰してもらえたからね。

この世は、寒さも暑さも厳しくて、

お腹は減るし、安らぐ場所もなかなか見つからない。

でも、ぼくはこの世が好きなんだ。

そういうわけで、帰ってきた。

褒美? この話ができることが褒美だよ。

これで食べていけるんだから、ありがたいね。

まあ、とにかく、

帰ってこれて、良かったよ!


***


吟遊詩人あるあるの話。(そうなのか!?)

人ならぬものの歌を歌う者は、

どうかするとあちらに気に入られて、連れ去られたりする。

そこからうまく距離をとって、逃げ出せるかどうか。

けっこう命懸けだし、幸運を引き寄せる技量もいる。

気に入られた分、とどまらないと、恨みを買ったりもする。

その恨みがまた、くるっと裏返って、執着されたり。

でも、そういうのもまた、

吟遊詩人、あるあるの運命。らしいよ?(本当?)