ガラクタ煎兵衛かく語りき

混乱の章

日記




神楽坂にて
(お姫様との邂逅)




大塚と銀座を繋ぐ通り道
2種類の地下鉄でそれは容易
それまで済んでいたんだけれど
ある日、突然遅れて、歩いて帰るはめになる
翌日体調はボロボロ


おかげで地理感を得た
休みの日は(月島で買った)自転車(ロードランナー)で
近所を確かめに疾り始めた


そうか、御茶ノ水とか、秋葉原とか、皇居とか、
そこに至る前に通るべき複数のルートが理解できたと思う


その中の一つが神楽坂だった
運命?
そんなの知らないけど
彼女プリティだったんだ
ただそれだけ


きつい坂を登って
あの半都会の様相を呈している界隈に初めて着いたとき
要するに、運命だったんだろう

自転車で信号待ちの僕の前に君は現れた
お使いの途中なのかな
横断歩道をカゴを抱えて通り過ぎようとしていた
それが君


一瞬で世界が変わった
もうボロボロな自分は消え去った
休日の、体休めのサイクリングは自覚さえしていない

目の前を通り過ぎる彼女
よくわからないけど、この瞬間を逃したら
もう先は無い
今しかない



自転車を端に放っぽり投げ
彼女の眼前に立ち尽くす
「すみません、少しお話できませんか?」

彼女は、(御免なさい)という(多分)通常の対応を示し
「急いでますので」
拒否された



後(のち)に、(今、年老いて)、あのシーンを回想すると
いろんな思いが沸き上がる



僕はお姫様に出逢えたんだ。
どこのお姫様かは関係ない
だって
僕だって
どっかのお殿様なんだから


切れ長の目、直毛黒髪、真っ直ぐに相手を見据える瞳
御免なさい
お姫様がたまたま、こんなメンドくさい輩に出逢わないよう
もっと警護を強化してください