ガラクタ煎兵衛かく語りき

第1章 告別式Ⅰ

自作小説

東の彼女が死んだ(フィクション)




第1章 告別式Ⅰ


ある日 急にあらゆる方面から私に急報が数通届いた
中には数十年振りの 今では顔も半分忘れかけていたあいつからも届いた
あいつだけじゃない どいつも こいつも

「亡くなったってよ」
「行かなくていいのか?」
「明日告別式だって」

なかには余計なお世話も混じっていた
「お前ら 結局 すれ違いだったな」

知るかよ (俺)私だってこんな結果は、、、
いや、、、待っていた、、、、、のかもしれない


遺されたものが共通して思う想い
〈先に逝けば楽だった〉





何十年振りかに彼女のホームタウンの駅を 供花を携えて訪れた
彼女は一人娘だった 両親は御健在だったが相当な御高齢だ
葬儀に際しては 当地の教育委員会のお偉い方が携わっておられた
知った顔は無い 当然だろう そういった世界を私は拒否したんだから

ところが蛇(じゃ)の道は蛇(へび)
葬儀場に至る庭園に面した回廊の一隅に集まっていた一群
どっちが先に気付いたのかはこの際関係ない
お互いに数十年振りの再会

全ての感情 全ての思考 全ての自己保存を放棄せざるをえなかった


彼女を芯として支持し 頼り 参加し それでも作品で主張し続けた
彼女代表漫研員の懐かしい顔ぶれが 私を迎え入れてくれた
お互い年寄りになったかんばせはデフォルメし放題!
誰か描いてくれたら面白いな



水栓を閉め忘れた両のまなこから溢れている水分は
握りしめた供花が余さず吸ってくれた







彼女の祭壇はストイックだった
とてつもなくストイックだった
彼女らしい


焼香し 花を供えたあと 遺影を見上げながら
ふと 右側の祭壇の横で 車椅子に並んでお座りになっている御両親に目が行った


「お元気そうですね」
御母堂が有り難く話しかけてくださった
「その節はお世話になりました」
私は20代の青年の頃に戻って緊張しながら返答した

「娘をあなたに任せなくて良かったのかもしれません」
うろたえながらも その真意は頂いた
「娘が生涯独身だったのは別にあなたのせいではありません」



いちばんキツい指摘を私は全身で受け止める覚悟を
この朝 札幌から〇別に向かう電車に乗った時から決めていた


「娘に あんな汚いパンツを洗わせるわけにはいきません」
『そこかよ! あ でもその通りでございますです』
無言のまま 私はガラケーのように頭を垂れた


告別式の後 最後に遺影を振り返った
スッキリとした笑顔
そう スッキリ
彼女らしい

その笑顔で彼女は私に軽く重たく低い声で高い声で言った

『あなたはバカですね』 





帰宅後 半日履いたパンツを脱ぎ棄てて洗濯機に投げ込んだ
とりあえず眠りにつける精神状態になるまで
ハードロックを大音量(ヘッドフォン)で数時間聴いた
やっと落ち着けた

『しょうちのすけ』
などと嘯きながらベッドに倒れ込んだ