奈良県警の本部長室に電話が入ったのは

7月7日の12時半だった

『明日正午　急遽　元総理が近鉄大和西大寺駅に入る』

電話元はZ党県連のトップからだった

本部長は水で昼食の残滓を飲み込んだ

返す刀　いや　返す電話で奈良県警警備部の参事官

同期のSに怒鳴った

「元総理が明日昼奈良西に来る　警備に万全を期するように！」

すぐさま参事官から近隣の奈良西署　周囲のルートに　

通常配備から緊急配備への変更が指示された

商店街には七夕をあしらった飾りが初夏の風にたなびいていた

同時に　党県連との10分おきの連絡ラインを常設

総理が奈良県に入ってから演説場所への移動ルート

そして指定された演説場所の周囲の徹底的な警備　管理　状況の掌握を

指示した

結局　翌日着く警視庁警護課からのSPを含めると　総勢約60人が動員された

11時半頃から始まった総理の応援演説は15分ほどで済み

多くの拍手と歓声の中　総理は帰京した

選挙はあと1日残っている

総理は専用機の中で最期の土曜日のスケジュールを確認した

奈良県警は務めを完全に果たした

7月10日　深夜　Z党は開票の結果を受けて　高らかな勝利宣言を全てのTV局に撮らせた

その中央には破顔一笑の元総理がK現首相の腕を持ち上げ　褒めたたえ　万歳を繰り返した

彼の目はこの国の将来を確信していた

『このままいこう　このままいける　わたしには分かっている』

耳鳴りはこれまで時折りあったので何も気にしなかった　

すぐに再び万歳三唱の大声が響き渡り　それをかき消した

さて　あなたは　ここからのお話の展開を望みますか？

一応聞いときますね

一応　　　　　　　　　　　　　　　-完-