どんぐりやボタンとか

ケニー

おれはよく浜辺や森の中、あるいは道端などで、落ちてるものを拾う。例えば、どんぐり、ボタン、貝殻、石、ちびた鉛筆、鳥の羽根、何かの部品、錆びた釘、などなど、ちょっと自分のセンサーに引っかかるものなら何でも。そして、それをコレクトして、部屋の棚の中にしまってある。

そんなふうに集まった自分の棚の中にある記憶や思い出、もしくは、新しい体験や、これからしたいことなんかをみなさんにシェアするブログです。

小人の風邪 (11)

自作小説


ミルが風邪をひいた。



彼女の場合、それが人間でいうところの「風邪」なのかわからないけど、せきをして、熱があって、汗をかいて布団の中でふうふう言ってる。

普段は高いからあまり買わない日本食材店で梅干しを買ってきて、おかゆを作った。
たまごとまぜて、梅干しを上にひとつぶのっけたおかゆ。


ミルはあんまり食欲がなくて、食べれなかった。

お湯に生姜と梅干し、はちみつをいれたものを飲ませた。



ミルが病気になったのははじめてのことで、おれはとても心配だった。


医者に来てもらう。


医者はルードリッヒというドイツ系の男で、丁寧に診察してくれた。

彼はミルのおなかに手をあてて触診した。

ミルは外見は人間と変わらないけど、おなかの中がやはり人間とは違うように出来ていて、どうにもわからない。と言った。

彼は一通りのビタミン剤などを置いていってくれたが、やはり人間に与える薬は万が一危険があるかも知れないと、処方しなかった。

まずは安静にしておくことと、少しずつでも食べ物を食べさせることでしょう。とアドバイスをくれた。

少し回復して外に出られる状態になったら、一度病院へいらっしゃい。
もう少し詳しく彼女の身体を検査しておいたほうがよい。
と言ってくれた。



しかし、ミルの風邪は、答えの出ない計算式や、コーヒーを入れてもどぼどぼとこぼれてしまう底に穴の開いたマグカップみたいに、長引いた。


ミルは汗をかき、ほっぺたやおでこを赤くして布団の中でふうふう言っているだけで、食欲も無く、水もあまり飲まず、一向に回復しなかった。


この一週間の間、町の友人たちも心配して果物や手料理を持ってお見舞いに来てくれた。
医者のルードリッヒも気にかけてよく電話をくれた。

もし、これ以上長引くようだったら入院したほうがいい。と進言してくれた。




病気にかかって8日目の朝、ミルがベッドから消えていた。




驚いて、部屋中を探し、次に家中をくまなく探した。


戸棚を開けて、ベッドのマットレスをひっくり返して、冷蔵庫を開け、本棚の本をどかして、ミルが隠れられそうなところは全て探した。

大きな家ではなく、部屋が2つに台所とバスルームしかないのですぐに探し終える。
どこにもいない。

外へ出て、家のまわりや物置の中も探す。

どこにもいない。

ミルが消えてしまった。



おれはなんだか怒りにも似た感情でわけがわからなくなりながら、家の前の湖へ近づいていった。



湖は緑色の木々が映り込んでいて、音も無く静まり返っていた。


その真ん中にミルがあおむけに浮かんでた。
すっぱだかで。


眠っているように見える。


おれはあわてて、湖にばしゃばしゃ入っていき、彼女のところまで泳いでいく。

近づいていくと、ミルはゆっくりと目を開けておれを見た。



何してんだ?どうしたんだ!
おれは叫んで言った。



熱くて熱くて、湖に浮かんだら気持ちがいいんじゃないかと思ったんだ。
とミルは言った。



そんなことしたら風邪をこじらせるだけだ!バカなことをするんじゃない!すぐに戻るぞ!
 おれはあまりにバカげたミルの行動に怒りと心配をごちゃまぜにして怒鳴った。



さく、ぼく治ったみたいだよ。

しかし、ミルはやわらかい笑顔でおれを見て、あっさりとそう言った。



ミルに触ると、彼女の熱はすっかり収まって、健康的な顔色に戻っていた。



心配かけて、ごめん。


ミルは、わけもわからず軽くパニック状態になってるおれのおでこにキスをした。

まるで、小さなことで慌ててる子供を落ち着かせる母親のように。


ミルは湖に浮かんで風邪を治した。

彼女は一度「その」中へ抱かれて一部になり、治癒したんだ。

それはごく自然な行為であり、学者が研究する以前にミルが身体でわかっていることであった。

彼女の面白いところは、「それ」に素直な状態であるところなんだ。



その夜、さっそく町へ繰り出した。

レストランではボッツェリーニが泣いていた。

ミルのことが心配で仕方が無く、この1週間、店の仕事も手に付かなかったらしい。客のみんなも元気が無く、このレストランにしては珍しくずいぶんと静かな1週間だったようだ。



そして、やっぱりボッツェリーニは山盛りの料理をミルに振る舞った。
おれのおごりだ!今夜はパーティだ!

  • ケニー

    ケニー

    2023/08/27 10:37:47

    haticoさん、

    なるほど。
    確かにそうかもしれないですね。
    人間は自然ともっと密接な関わりがあったのだけど、いつしか、それから離れて行ってるのかもしれませんね。

    はい、ありがとうございます。
    ミル、めっちゃ元気です!
    たぶん、彼女には病院で検査したり、入院したりする必要はなさそうです。
    彼女にとっての病院はその湖であったり、自然こそが彼女の戻る場所だからです。

  • hatico

    hatico

    2023/08/27 08:54:37

    わあ!素敵な話ですね
    「それ」はず~っと昔から人間の側にあったはずなんですよね
    昔の人たちもミルちゃんみたいに「それ」に素直だったんだろうなあ

    ミルちゃん元気になって良かった
    ミルちゃんの身体は検査したほうがいいような
    しないでそのまま不思議なままでもいいような
    そんな気持ちです

  • ケニー

    ケニー

    2023/08/27 00:27:21

    なほちゃん、

    はい、読んでいただければわかりますが、治っていますよ〜。

  • ケニー

    ケニー

    2023/08/27 00:26:47

    べるさん、

    心配させてしまって、すいません。。
    はい、大丈夫です!
    ミルはめっちゃ元気です!

    そうでしょうね。
    自然の一部なんでしょうね。

    ありがとうございます!
    そんなふうに、優しいお気持ちで読んでいただいて、ミルもさくも喜んでいると思います。

  • ケニー

    ケニー

    2023/08/27 00:25:03

    ルルルのルさん、

    心配してくれて、ありがとうございます(^-^)

    へえ〜、肝臓と腎臓を温めると良いって初めて聞きました!
    興味深いです。

    おれの場合、風邪ひくと、めっちゃ生姜食べます。
    そうすると、結構早く治っちゃうんです(^-^)

  • なほちゃん

    なほちゃん

    2023/08/26 17:30:54

    早く良くなると良いね

  • べる

    べる

    2023/08/26 16:55:11

    読んでて、そのままミルちゃんいなくなったらどうしよう、と思ったので良かった~^^

    やっぱりミルちゃんは自然から成り立ってるんだろうなぁと思います。

    今後の展開考えると、人間ではないのでまた何かが起こらないか不安はありますよね・・・でもそれも自然の成り行きだと思って、暖かく見守りながら読ませて頂こうと思います^^

  • ルルルのル^^

    ルルルのル^^

    2023/08/26 10:44:23

    あぁ、、良かった

    身体の声をちゃんと聴いて、治したのですね

    それ大事です

    人間の場合でも、熱が出たら下げるのではなく、肝臓腎臓を温めてあげると良いです^^