どんぐりやボタンとか

ケニー

おれはよく浜辺や森の中、あるいは道端などで、落ちてるものを拾う。例えば、どんぐり、ボタン、貝殻、石、ちびた鉛筆、鳥の羽根、何かの部品、錆びた釘、などなど、ちょっと自分のセンサーに引っかかるものなら何でも。そして、それをコレクトして、部屋の棚の中にしまってある。

そんなふうに集まった自分の棚の中にある記憶や思い出、もしくは、新しい体験や、これからしたいことなんかをみなさんにシェアするブログです。

窓の外、満天の星空を知らず

自作小説

小人の小説を一旦お休みしてる間、ちょっと他の短い小説でも載せてみようか、とPCのフォルダを探してみると、いつ書いたのかわからないとても古いのが見つかりました。
これは、小説とは言えないような作品で、なんというか、一場面を切り取ったものです。
しかし、そのたった一場面で、たぶん、出会った男女が、まるでバラバラになって遠く離れていたソーサーとカップがピタリと合うような瞬間を切り取っているのだと思います。

お目汚しになるかも知れませんが、ご一読くださいませ。
(ふふ、こんな言葉、初めて書いた!ちょっとこんなこと言ってみるのもおつなもんだね。)






「窓の外、満天の星空を知らず」


ロンドンで出会った女とパリへ行って、グラチネを食べ、映画を観た。

フランス語の映画だったのでふたりとも何もわからないまま2時間を映画館の暗闇で画面を眺めて過ごし、外へ出た。

外気はひんやりとして映画館で座りっぱなしでくたびれた身体に心地よかった。

ホテルへの帰り道、酔っぱらった浮浪者が路上で何事かわめいていた。

ホテルの部屋でテレビをつけるとアメリカからの衛生放送で、ハドソン川に飛行機が墜落した映像が映っていた。

部屋のあかりを消していたので、テレビの青白い光だけが暗い部屋のソファを照らしていた。


ふたりでの初めてのセックスをするかどうか、を少し話し合い、結局セックスではなく、部屋にあったチェスをした。

彼女はチェスがさほど上手ではなく、おれもさほど上手ではないのでつまらなくなって途中でやめてしまった。


彼女は愛について、そして日本についての質問をおれにした。

おれはそれらについて思うことを彼女に話した。

彼女はそれをとても上手に理解するもので、おれはまるで、言葉で空を飛んでいるような気持ちで自由に話すことができた。


つづいて彼女がおれに、自分の国のこと、そして、愛について、思うところを話した。
彼女の話し方は少しスピードが速く、つっかえたり、言葉が足りない部分もいくらかあったが、それでもとてもよくそれらのことを、じつに深く理解している内容であった。

そして彼女もまた空で翼を広げ自由に飛ぶように話すことができているようで、言葉から開放感と輝くひらめきが感じられた。


ふたりの言葉は交互に放たれて繋がったり、ひとつに溶けていったり、天井へ消えていったり、テレビの光のなかで踊ったりしていた。

それは、いくつもの研磨されていない宝石の原石がはじけているように見えた。

ふたりは、お互いの人間をからませ合いながら、アメリカのこと、フランスのこと、メキシコのこと、日本のこと、イギリスのこと、宇宙のこと、動物のこと、芸術のこと、文学のこと、Bill Evansのこと、スポーツのこと、原発のこと、倫理のこと、性のこと、身体のこと、こころのこと、まるで永遠に続くのであろうかと思えるほどたくさんのことを話した。

ときには大きなアクションでのジェスチャーをまじえ、ときに笑い合い、ときに相手を指差して。


彼らにとってそれはもうすでに、ひとつの、二人にとっての、オリジナルになっていた。



翌朝、ホテルから外へ出るとき、ふたりはすっきりとした表情で同時に右足から路上へと歩み出た。

カフェで、コーヒーをのみ、おれはタバコをふかし、彼女はこれから行きたい場所を話した。

おれは、それはとても魅力的なプランに思えたので、彼女の行きたい場所へ行くことに決めた。

バス停まで歩き、しばらくバスを待ち、バスに乗り、地下鉄を乗り継いで、1時間かけて彼女の行きたい場所へと着いた。

今日はとても晴れている。

  • ケニー

    ケニー

    2023/09/02 11:17:19

    haticoさん、

    読んでいただいて、ありがとうございます!

    はい、そうですね。
    特に会話の雰囲気は実話をもとにしてます。
    ありがとうございます(^-^)

    そうですね。
    おれもそう思います。
    おれはどちらかというと、1言ってくれれば相手が気づいてないところまで気づける感じだと思います。
    ところが、逆はなかなか難しい。
    おれは、この程度の言葉で通じるだろうと思って言っても、全然通じないことがよくあります。
    自分はそのくらいの分量の言葉で理解できるから、相手もできると思うとそうではないんですね。
    なので、おれも自分の言葉を本当に理解してくれる相手はとても嬉しいです。

    あ、ところで、野暮を承知でちょっと説明すると、タイトルの「窓の外、満天の星空を知らず」というのは、的の外には満天の星空が広がっていて、でも、二人は部屋の中でその星空があることも知らずに夢中になって話している情景を象徴する言葉にしたかったのです。
    たぶん、haticoさんわかってるような気がするけど。
    そうですね。
    満天の星空を二人で見るのはとっても素敵ですね。
    個人的にはそのアパートの屋上で二人でワインでも飲みながら見たいです(^-^)

  • hatico

    hatico

    2023/09/02 06:25:40

    ケニーさんの実話かな?(日記的な?)かなと思って読みました
    この先二人は長い間一緒に過ごして満天の星空を見られるといいですね
    素敵なお話でした(*'ω'*)

    何気ないことでも分かり合える関係って居心地良いですよね
    1を話して10や100を理解してくれる人、1を話して-100になってしまう人、
    やっぱり前者のほうがお互いにとって気持ちが良いと思う
    人が人と関わるとき、良い関わりをするとお互いに世界が広がりますよね

  • ケニー

    ケニー

    2023/09/02 02:10:58

    はい、そうみたいですね!

    はい、これ、少し実体験に基づいてます。
    特にこんなふうにおしゃべりすることが、本当に自由になれる感覚があって、それって、その相手じゃないとできないことであって、自分とその相手とだけじゃないと生まれないオリジナルの形になると思うんですね。
    そんな相手こそ、自分のパートナーになるんじゃないかな〜?って思うんです。
    独身なので、なんとも言えないけど!(^-^)

  • べる

    べる

    2023/08/31 17:39:30

    まずグラチネが何だろうって思ってしまいましたが、グラタンの正式名称なんですね~勉強になりましたw

    大人になると、すぐ体の関係になってしまう話が多いですが、こういうお互いの事をちゃんと知って、それが心地よい関係って素敵ですね♪

    なんとなく、ケニーさんの理想の恋愛はこういう形なんだろうな~と思ってしまいました。いや、違ってたらすみません(^^;