どんぐりやボタンとか

ケニー

おれはよく浜辺や森の中、あるいは道端などで、落ちてるものを拾う。例えば、どんぐり、ボタン、貝殻、石、ちびた鉛筆、鳥の羽根、何かの部品、錆びた釘、などなど、ちょっと自分のセンサーに引っかかるものなら何でも。そして、それをコレクトして、部屋の棚の中にしまってある。

そんなふうに集まった自分の棚の中にある記憶や思い出、もしくは、新しい体験や、これからしたいことなんかをみなさんにシェアするブログです。

海の見える町 (2)

自作小説

たぶん寝たのがまだ9時ころだったので、翌朝はずいぶん早く6時ころには目が覚めた。ワインを相当たらふく飲んだのに、二日酔いにはなってなくて、むしろ腹が減っていた。昨日、あれだけ食べた料理はどこに消えたんだろう、と思うほど健康的に腹がぐう、と鳴った。
歯磨きをして顔を洗い、トイレへ行く。一通りの朝の儀式を済ませてから、着替えて一階へ降りた。
主人はもう朝食の準備を始めているらしく、なにやらいい匂いと活気のある料理をしてる音が聞こえた。
主人はおれが降りてきたことに気がついたらしく、エプロン姿でキッチンから出てきた。
おはようございます。よく眠れましたか?今朝食を作ってますから、浜辺を散歩でもしてらっしゃい。朝の海は特にいいですよ。

教えてもらった道順の通りに歩くと、6~7分で浜辺についた。
海はスカッと晴れ渡り、弓なりに続く長い浜辺と、水平線が遠くまで見渡すことができた。
嬉しいのはおれの住む街の海とは違って、砂浜に足跡が無いことだ。たった一晩の間、風に吹かれただけで足跡が全て消えてしまう程度しか、人間の数が少ないのだ。
昨晩の主人の話では、この辺りの海は大洋から流れ込んで来る5つの大きな海流が混ざり合う地点で、他では見られないいくつかの特徴があるそうだ。
海の色はわずかに黄緑がかっており、昨日食べたフルシアンテと似た柑橘類の匂いが、言われないと気づかないほどではあるが、潮の香りに混ざっていた。
浜辺には見渡す限り人がおらず、
ゆうゆうとした贅沢な気分で散歩していた。
歩いてるときのくせで、ポケットからタバコを出して咥えた。火を付けようとして、やっぱりやめた。今タバコを吸うのがもったいないように思えたのだ。

水平線の辺りの上空に海鳥が群れていて、昨日TVで観たエスパーかな、と思って目を凝らした。遠くてよく見えないけど、たぶんカモメだろう。
群は徐々にその数を増し、5分も見ていると相当な数になっているようで、その濃度が増し、何か黒く大きな生き物がその上空一帯を支配しているように見えた。
きっと相当魚影が濃いのだろう。
やはりとても豊潤な海なんだな、と思って海を眺めていた。

何か足元にちらりと影が動いたような気がして振り向くと、犬がいた。
白い中型犬で、たぶん雑種だろう。犬の素直な性格そのままのつぶらな目が可愛らしく、よお。と声をかけた。
犬はおしりをぺたんと砂浜につけて、しっぽをふりふりしながらおれをじっと見つめている。

悪いけど、何も食べ物を持ってないんだ。と言って頭をなでた。

その子けっこう人見知りなんだけどね~。急に後ろで誰かが日本語で言ったので、ちょっと驚いて振り向くと、すらっとした女の子が立っていた。中学生か高校生くらいだろうか。

その子人見知りなのよ。

女の子はもう一度同じことを言った。
この町の子かい?と、聞くと、
私?それともこの子?と聞き返された 。おれは笑いながら、二人とも。と答えた。

この子はこの町の子、私の姉の家の子よ。でも私は今はこの町に住んでるんでもないし、子でもないわ。

おれ一瞬よくわからない顔をすると、

こう見えても27歳なの。童顔で背も低いからよく子どもと間違われるんだけどね。
と言った。

おれは素直に詫びると、いいわ。慣れっこだし、私こんな格好だし。

たしかに彼女は「JUST DO IT」と大きくゴシック文字でプリントされた黄色のTシャツと薄い色合いのジーンズに紫色のスニーカーという格好で、それにショートカットのボーイッシュな髪型で、それがますます彼女を幼く見せていた。

彼女は毎年、夏になると姉夫婦の家に居候して、この町で過ごすらしい。

この子はね、臆病だから知らない人には滅多に近寄らないのよ。珍しいわ。犬飼ってるの?
おれは飼ってないよ。と答えた。

じゃあ、もしかするとあなたいい人なのかもね。と微笑んだ。
あなたはここの子?

わざとおれと同じ言い方をして聞いてきたので、笑いながら、ここの子じゃないよ、旅行中にちょっと海が見たくなってこの町に立ち寄ったんだ。あそこのベッド&ブレックファーストに泊まってる。と答えた。

海が見たくなって、ね。あの宿の料理とても美味しいでしょう?
私、この季節は毎年この町に来るんだけど、よくあそこで夕食だけごちそうになりに行くのよ。たったの$5でたっぷり美味しいものが食べられるんだもの。ふとっちょのおじさんもとってもいい人だしね。私、大好き!
それにあのおじさんの初恋の人が私のお母さんなのよ。
素敵じゃない?そうゆうのって。

おれはあっけらかんとそんなことを話す彼女に少し驚きながら、そうか、じゃああのご主人が君のお父さんだった可能性もあるわけだ?
と言った。

うん、そうね。あ、でも、もしあのおじさんとお母さんが結婚してたら、私じゃなくて別の子が産まれているわ。

確かにそうだね。

私ははつみ。あなたは?
と聞かれ、おれは名前を答えた。

へえ、さくら、なんて女の子みたいな名前ね。
でも、あなたに似合ってる。

そう言っておれの顔をまじまじと見た。
こんなふうに思い切り目を見られるのはどぎまぎするけど、嫌な感じではなかった。

いつまでここにいるの?と聞かれた。
決まっているわけじゃないけど、もう少し滞在しようと思ってるよ。あの宿の食事も美味しいしね。と答えると、じゃあまた会うかもね。バイバイ。と言って、さっさと帰っていった。

なんだか、突然にきれいなものを手に握らされて、あっさりとそれをまた取られたような気分だった。

  • ケニー

    ケニー

    2023/09/05 08:58:51

    べるさん、

    読んでいただいて、こちらこそありがとうございます!
    でも、体調とかしんどい時に無理して読まないでくださいね〜!
    気軽な気持ちでちょっと楽しんで読んでいたけたら嬉しいです。

  • ケニー

    ケニー

    2023/09/05 08:57:59

    ロワゾーさん、

    褒めていただいて、嬉しいです!
    ありがとう!!

  • べる

    べる

    2023/09/05 08:04:22

    さくらさんの心境が最後の1行に全て詰まってますね^ ^

    読んでて爽やかな気分になりました。ありがとうございます♪

  • ロワゾー

    ロワゾー

    2023/09/04 22:14:12

    ケニーさんの比喩が好きだなあ
    最終行が最高

  • ケニー

    ケニー

    2023/09/04 11:02:13

    せんちゃん、

    ありがとうございます(^-^)
    また続き載せますので、気が向いたら読んでください。

  • せんちゃん

    せんちゃん

    2023/09/04 10:08:43

    うふふ。最後の一文が効いてますね☆