せんちゃん

アスーラとアズラーイル 2

自作小説

村の長老が僕は「神龍様と一心同体になり、人々を救うために」神殿に行かなければいけないと言った。


どうして僕なの?

それは聞かなくてもわかっていた。
僕を守ってくれた両親はもういない。狩の途中でマハール族に襲われたのだ。
後には母が使っていた弓矢と父の持っていた槍の残骸だけが残っていた。

何よりも、僕は非力でそして畸形だったから。

僕の背中には大きな瘤があって、まるで手足にいくための養分を吸い取っているかのように成長し続けていた。おかげで、僕はいつも重い荷物を背負っているかのように前かがみでしか動けなくて。そのために、よく転んだ。

神殿には新月の夜に向かうことになった。
最小限の松明だけで、マハール族の襲来を避けるために。

凍てつく夜だった。

長老と二人の大人の男が僕を籠に入れて運んだ。足元で固い雪が重みできしむ音だけが響いていた。

以前、長老が龍族の伝説を皆に語っていた。
僕たち村人は龍族を始祖に持つ特別な一族の末裔なのだと。

遥かな昔、龍の一族がこの大地に空からやってきた。その頃の人間は狩りの道具も貧弱で作物を作ることも知らなかったけれど、今よりもずっと暖かな気候のために皆幸せに暮らしていたのだそうだ。

龍の一族は人間に様々な知恵を授け、永い年月の果てに龍族と一部の人間は親類となった。

しかし、龍の一族の中にはこうしたことを良く思わない一派がいた。
彼らは龍族だけがこの大地を支配し繁栄するために、人間を滅ぼすことにしたのだ。

やがて大地が急速に冷えて、龍族を含めて生き物が暮らせる土地が少なくなるとそういう一派がどんどん勢力を増した。

そして人間に知恵を授け、共存しようとした龍の一族と彼らの長い長い戦争が始まった。

過酷な戦いの末に龍族はどちらの勢力も手痛い損害を受け、人も龍族も数を減らした。

そして最後に残った人間の味方となった神龍は秘密の神殿にひっそりと身を潜め、人間を攻撃してきた龍族も空に帰っていった。

しかし、マハール族の襲来は止むことがなかった。彼らは人間を根絶やしにするために空に帰った龍族が作った「命を持たない」攻撃するためだけの機械なのだそうだ。

マハール族を射ち落した者の話では、彼らには血も肉もなくただ無数の金属の破片になったそうだ。

僕は神龍様に会って、マハール族の襲来を止めてくださるように懇願しなければいけない。そうでなければ、僕ら村人も他に生きているかもしれない人々の命も絶えてしまうだろうから。

でも…そんなことが出来るのだろうか?

誰も神龍さまが本当に存在するのかは知らない。伝説の神殿の場所は古くから伝わっているけれどそこから帰ってきた者はいないのだ。

僕は神龍様に会えるとは信じていなかった。
でも、天国に行ってしまった両親には会いたいと思っていた。

天国には美しく優しい天使さまもいる。

何度か夢に見たことがある。
うっとりするような美しい少女が僕に微笑みかけてくれる夢。
きっと彼女は天使さまなんだと思う。