【お話】軽やかに踊れる魔法。
軽やかに踊れる、それだけの魔法。でもそれだけの魔法が今、勇気をくれるの。
もらったステキコーデ♪:23
わたしたちの国には、魔法があるの。
誰もが生まれた時にひとつ、魔法を授かる。
パンを上手に焼ける魔法。お掃除がきれいにできる魔法。
ちょっとした、ギフト。暮らしを彩ってくれる、小さな喜び。
でもね。長く続く一族には、それなりの矜持やら、しがらみがあって、
要はマウントね。持っているギフトの内容で、得意になったり、誰かを馬鹿にしたりする人がいるの。
くだらないって、思わない?
髪の毛をきれいにカールできる魔法の持ち主が、漬物が美味しくできる魔法の持ち主を馬鹿にしたり。
ばばくさいとか、何よ。くるくる頭よりわたし、美味しいピクルスが毎日食べられる方が役に立ってると思うわよ。
スポットライトとキラキラのエフェクトの魔法の持ち主が、絵の具を作れる魔法の持ち主を笑いものにしたり。
地味すぎるって、、、あなたね。年とってもスポットライトやキラキラがはがれないと、逆に恥ずかしいんじゃないの? 注文通りの絵の具が作れるなんて、画家さんにとって、どれだけありがたいか。
誰もが何かしら、小さなギフトを持っていて。それをどんな風に使うか、あるいは封印するか。考えて生きているの、わたしたち。使わないで生きるって選択肢だってあるのよ。それでも幸せに暮らせるの。当たり前でしょう?
わたしがもらった魔法は、軽やかに踊れる足、だった。
ダンスをする時にパートナーと一緒に、ほんの少しふわっと浮き上がって。妖精みたいに軽やかに、風や光に乗るみたいに楽しく、くるくる踊れるの。
それだけよ?
でもそれだけが、子どもにはうれしくて、楽しいものだったのね。一族が集まってダンスをする時には、わたし、もてたの。一緒に踊って! って、たくさんの人が来てくれたわ。
宙に浮いて踊れるって、うれしいじゃない。誰にとっても。
でも、それが気に入らなくて、腹を立てる人もいるのよね……。
本家のお嬢様が、パーティーで自分が主役になれなかったと、子どものころから嫌がらせをしてくるの。いや、わからないでしょ。こっちも子どもよ? 順番待ちしている人の相手をしているので精いっぱいだったし。
お嬢さまが目立ちたくて頑張っていたのに、アピールしようとしていた男の子がわたしの方に行っちゃった、なんて、わからないわよ!
なんだか睨まれてるなあ。とは思っていたけど。飲み物をかけられたり、招待状を隠されたり、変な噂を流されたり。そういうのがずっと続くのよ。大人になっても。めんどくさい。本当、めんどくさい!
お嬢様の魔法って、きれいにお化粧が乗る、でしょ? おしゃれをしていたら良いじゃない。喜ぶ人、たくさんいるわよ。夕方近くになると、お化粧がよれてくるんだもの。直してくれる人がいたら、ありがたいじゃない。
でもダメ。目の敵みたいにされてる。仕事にも支障が出そうになって、それはさすがに止めた人がいたみたいだけど。
一族の集まりにはだから、顔を出さないようにしていたの。でもねえ……。
「ねえ、アリス。招待状が来たわ。このドレス着て来いって」
「ええ~? あのお嬢様がフェイに? あれだけ嫌がらせしてきて今更……って、なにこれ。毒々しい色にあちこちぱっくり布が割れて、どう見ても下品な悪女路線」
「婚約発表の気軽な仮想パーティーですって」
「だからって、これ、露出がすごすぎ。何かたくらんでるのね、また」
「行かないと、従妹のニーナが仕事をクビになるみたい。あの子の事務所、お嬢様の家が経営する会社の下請けだし」
「マジ? そこまでやる?」
「やると思うわ、あの子のことだから」
嫌そうにドレスをつまみあげるわたしに、アリスは笑った。
「じゃ、何とかしましょう」
「できる?」
「あたしの魔法を何だと思っているの。『一定時間、物の色を変える魔法』なのよ! あのお嬢様には、何の役にも立たないショボイ魔法って笑われたけどね! 需要あるのよ、この魔法、意外とね!」
ひょいっと指を振ると、ドレスが淡い、パステルカラーになった。
「着てみて、フェイ! 布の面積が少ないのも、妖精みたいなイメージにできるから。あたしはドレスメーカーのリメイク部にいるのよ。どんな悪女風ドレスも、雪みたいに清楚に、妖精みたいにファンシーにしてあげるわ!」
ふんす、と鼻息荒くアリスが言う。友達に電話をかけまくり、あれよあれよという間にドレスは、『雪みたいに清楚、妖精みたいにファンシー』にされていく。レースが、魔法が飛び回る。呼びつけられたお針子が、わーわー言いつつデザイン画を起こし、ミシンの音が、だだだ、と走る。
「何というシンデレラ。現代の魔法使いって、自力で針を持つのね」
「あっはっは、ビビデ、バビデ、ブー! 当り前。ギフトもあたしたちの能力だから使うけど、技術は自分で磨くもの。そうやってよりよい方へ、人が幸せになるほうへ進むんじゃない。ギフトに頼りっぱなしじゃないの。ギフトに感謝しつつ、自分の力も上げていくのよ!」
アリスが笑い、ドレスが完成。
「でもこれ、途中で色が戻ったり…?」
「あ、大丈夫。俺が「固定」の魔法をかけた」
アリスのパートナーのジェフが笑って言った。
「最初っからこの色だった、みたいになってるよ。俺たちのコンビはパーフェクトだよな、アリス?」
「もちろんよ! 素敵に踊っていらっしゃい、フェイ! もう何年も、本家の集まりには行っていないんでしょう?」
「ええ、、、これなら、何か言われても恥をかくことはないわ。みなさん、ありがとう」
「どういたしまして。毒々しい魔女改め、雪みたいに清楚な仙女さま。俺たちの努力をできれば、宣伝してきて!」
「わかったわ、こんなにすごい職人集団がいるって、アピールしてくる!」
そうして出向いたパーティで数年ぶりに出会った本家の御曹司は、ダンスを何度も申し込んできて、別の意味でわたしは注目の的になった。
「覚えてる? 子どものころ、きみと一緒に踊ったんだ。宙に浮いてくるくる回って、夢みたいに楽しいダンスだった。
また会えてうれしいよ、フェイ」
「あ、あ~、そうね。そうだったかしら。ねえ、ほかの人とも踊ってきたら、ほら」
「冷たいなあ。ぼくはきみと踊りたいんだよ!」
ああ、うん。お嬢様がわたしを目の敵にしてくれた原因の男の子。
今も彼女が、じっとりした目でこっちを睨んでる。お嬢様! 今日はあなたの婚約式で、あなたのパートナーは隣の男性!
お嬢様のお化粧の乗りは最高。ぴっかぴか。婚約者の男性の魔法は、スポットライトとキラキラのエフェクト。最高レベルで輝きが、どーん。
二人は、この世のものとも思えない光の渦に包まれて、壇上にいる。
会場中の人の目は、まぶしすぎてあちこちにうろうろしている。
「ギフトに頼りすぎるとこうなるのか……」
一番、目立とうとしたんだろうけど。直視できない。
「君の衣装、目に優しいからありがたいよ」
しみじみした調子で、御曹司が言った。
「飲み物を持ってくるよ。そのあと、また踊ってね」
つぶしたフランボワーズの入った、キラキラしたシャンパン。そのあとまた、くるくる踊った。
そうしてパーティは終了したけれど。それからなぜか、御曹司からデートに誘われるようになった。ちょっと、アリス! なにニヤニヤしてるのよ。そんなのじゃないから!
確かに一緒にいると、楽しいけれど。それだけだから。ほんと、それだけなんだからね!?
***
小さな魔法の話。
ちなみに絵の具を作る魔法を馬鹿にされたのが、御曹司。キラキラエフェクトの男性に馬鹿にされ、むっとしていたところでフェイと踊って楽しくなり、機嫌が直った。そのあと彼女と接点を持とうとしたけど、一族の集まりに彼女が来なくなって出会えなくなり、やきもきしていた。