もえーん

雨がやんだら その1

日記

年始になっても筆の進まぬ此の頃。
順番に日記にしていこう。

明けて3日は少々飲み過ぎ。
翌4日に目が覚めたら、10時。

とりあえず水を飲んで、一息。
価格と内容の条件の合うものを1年近く探し、やっと希望にマッチするものを見つけて購入した1.5ℓのバックパックに、一泊分の着替えを詰める。

それから朝食はすっ飛ばして、とりあえず犬の散歩。
家の前の公園を途中で横道にそれて、そのまま神社にぬける道へ。毎年の獅子舞とお囃子を犬くんと見学。お囃子を後に帰途につきながら、こんな穏やかな日々を過ごせることを幸せに思う。

帰宅しがてら、いつも夜の犬散歩で寄るカフェバーへ。新年の挨拶をしつつ、コーヒーを一杯。膝の上で大人しくしているコーヒー大好きな犬くんにも、少しだけ舐めさせて。

そして帰宅。
犬の足を洗い、そのままバックパックを背負い、バイクのエンジンに火を入れる。

ヨットに乗っていた頃、毎年の夏にレースで出向いていた下田。
今度はヨットではないけれど、そして夏でもないけれど、どうしても行ってみたかった。

まずは東京湾沿岸の自宅から、反対の相模湾に抜ける。いつもであれば細い曲がりくねった道を流しながらなのだけど、もう時刻は12時を回っている。時間優先のルートに進む。

江の島付近で相模湾に出ると、いつもとは逆に伊豆を目指して右折。
そのまま134号線を西に向かい、西湘バイパスに乗る。久しぶりの高速道路は250㏄のバイクには酷だが、眼下に広がる海を体に直に感じる心地よさは、車では味わえない。

終点の石崎ICのひとつ手前、早川ICで高速を降り、そのまま伊豆半島の沿岸をひた走る国道135号線を南下する。

真鶴を過ぎる。
まだ幼稚園から小学校の低学年の頃、潜水士の資格をもつ父に、よく連れられてこられた。父が海に潜って魚や蛸、栄螺などを銛で獲ってくるのを、海岸で待っていたことをボンヤリと記憶している。獲った魚は宿に持ち帰り、捌いてもらって夕食として提供してもらっていた。
いまのように、家族づれが魚や貝を少し獲っただけで漁師から強盗扱いされるような、貧しく世知辛い時代ではなかった。

伊豆半島の海岸線は、リアス式海岸や海蝕崖が続く入り組んだ地形だから、のっぺりとした砂浜の続く湘南地域とは景色が一変し、道路も曲がりくねったワインディングとなる。林の木々を見ながら走る山間部のワインディングとは趣が違い、なかなか新鮮だ。
もっとも、少しペースを上げると前を走る車に追いついてしまうので、適当に流しながらの道程になる。

熱海に到達するころには、海の上に大島が大きく見えている。いつもヨットレースで、この島を見ながら相模湾を横断していた。今度は陸地から大島を遠巻きに見ながら走る。

海底温泉で有名なハトヤホテルを横目に、伊東を通過。
このあたりで既に陽は暮れかけていた。

気掛かりなことは、出発前に確認していた天気予報だ。18時あたりから雨予報。
果たして、伊東を過ぎてしばらくしたあたりで、予報通りに雨がパラついてきた。熱川に着くころにはそこそこの雨となり、ヘルメットのシールドが水滴で一杯になり、視界が悪くなってきた。
しかも既に日没となっているので、どの車もヘッドライトを灯している。対向車のライトが水滴で一杯のシールドにあたると、光が乱反射してほとんど視界がなくなり、そうなると、もうどこが道路なのかもわからなくなってくる。

とりあえず目に入ったコンビニに入り、すっかりと冷えた手と体を、甘い缶コーヒーで温める。もっとも、新調した極寒対応のバイク用ジャケットを着こんでいるので、体はそれほどでもないが、なにしろ手が冷たい。


さて、それにしてもどうしたものか。


本当は日帰りも考えてはいたのだが、この状況で運転を何時間も続けることは危険すぎる。せっかくここまで来たのだから、なにかまともな食事もしたいし、本当は寄ってみたいところもある。着替えもわざわざ持ってきたのだからと、諦めて宿泊をすることにした。

事前に調べて空室を確認していたビジネスホテルがあるのだが、安い方の部屋が満室になってしまっていた。仕方がない、1万2千円もする方のホテルは残一室ということなので、予約を入れる。

無事に予約完了のメールが届き、まずは今日の寝場所は確保された。
あとは無事に残り30分程度の道程を走り切れば、暖かい部屋と風呂が待っている。

そして19時ごろ、懐かしい伊豆急下田駅に到着した。
そうだよな。毎年、ここに来ていたんだ。
そんなことを思いながら、駅前のロータリー沿いにある予約したホテルを見つけ、フロント階に上がる。さっぱりと綺麗なフロントと、丁寧なホテルマンの対応に安心する。部屋に入ってみれば、狭くはあるが清潔で何の問題もない、というか減点するところが何もない立派なビジネスホテルだった。

何はともあれ、風呂に入ろう。

カランの蛇口をひねり、湯船に湯をためる。
湯張りの間に濡れた服を脱ぎ、ハンガーにかけ、そして荷物を整理する。

トイレも洗面も同室のユニットバス。足も伸ばせはしないが、しかし温かい湯につかると、ほんとうに救われた気持ちになる。これであとは、多少なりとも旨いものが食べられれば、それ以上はない。

風呂から上がると、もう19時も後半。如何に観光地とは言え、商店の店仕舞いは早い。まして今日はまだ1月4日だ。
さっと着替えて、すでに僅かな小雨となっていた外に出る。手近かなところ美味しそうなレストランがあったが、予約で一杯とのこと。ほとんどの店がまだ年始の営業を開始しておらず、選択肢は限りなく少ない。そうこうしているうちに、雨脚が強くなって来たが、念のためと持ってきていた折りたたみ傘を部屋に置いてきてしまった。

そんな中で商店の多い通りを少し進むと、あった。
お気に入りだった、地魚を食べさせるお店。
これも何かの縁なのだろう。なんと営業している。

暖簾をくぐると、座敷は満席だが、カウンター席が空いていた。
ビールを一瓶。それから海老シュウマイを頼み摘まんでいるうちに、注文した定食がやって来る。馬鹿でかい焼いたイサキと、猛烈に肉厚なブリカマの塩焼き。そこに小鉢や茶碗蒸しまでついてくる。大食いの私が怯むような大ボリュームだ。

骨までしゃぶりながらイサキを食べていると、厨房に居た店長が(彼が店長という事は知っている)「泊まりですか?」と声をかけて来た。
実はヨットレースで毎年来ていて、ここも何度かお邪魔していて、というようなことを話しながらイサキを平らげ、とんでもない大きさのブリカマに箸を進める。

どうにも満腹になり、店長に挨拶をして店を後にした。
ビール大瓶、お通し、海老シュウマイ、イサキとブリカマの超豪華定食。〆て3300円。大丈夫なのか、そんなに安くて。。。