お蝶の願い
ここ2日程、雨が続いた。が、今日は、朝から本当に気持ちの良い青空が広がっている。私はリスのピョン太、彼の背中にちょこんとつかまったチヨウのお蝶と一緒にログハウスの外に出ている。家の周りを優しく包む、森の散策だ。
先ず、ベランダから、庭の樹木達に、朝の挨拶をする。彼等から、口々に、おはよう、オハヨウ・・・と、元気な声が返ってきた。ベランダを通り、階段を降りる。左側にドンと構える楠木が、お蝶にネギライの言葉を掛けてきた。
楠木 <お蝶!!!、顔色が良くなった。元気
そうで、ナニヨリだ>
お蝶 (お陰さまで。皆さんから手厚い看護を
いただき、少し回復の兆しが・・・・)
楠木 <ソウカイ、ソウカイ。良かったね!>
お蝶 (これまで、北の国との、行き帰りに、
貴方の葉陰で休ませてもらい充分に休養
出来たこと、本当に有難う。でも、これ
からは、その必要は、無くなりそう。)
楠木 <それは、いったい、どうしてなの?>
お蝶 (私の体力では、今迄の様な旅は無理、
多分、私の命、この春で尽きると想う)
お蝶は、一瞬沈黙する。その後、言葉を紡ぐ。
(私、決めました。この家の子になることに。ご主人から、進められた事も有るけれど、自分の気持ちに正直に問うた上での決断なのです)
お蝶は、又、押黙る。そして、言葉を続ける。
(残された僅かな時、心の通じ合える皆様方に囲まれて、豊かに過ごしたいのです・・・・・
私、幸せだった、と、思いながら死にた!!)
お蝶は、又、沈黙。そして・・・・・・・
(楠木さん。貴方に、最後のお願いをさせてください。もう少し、暖かく成ったら、葉陰に、私の卵を産ませて欲しいノ。元気な子供達が、
北の国へと旅立ち、私の想いを皆様に届けてくれると希望しています・・・・・・・・・)
クスノキは、心なしか落胆した様子だったが、
表面は陽気に明るい言葉で、
<モチロンOK、心配は無用、ご安心の程!!>
と、優しく、心から労るように、話し掛けた。