少年
私達は、恒例の朝散。ベランダを出ると、何時もは、左側に進むが、今朝は、右側に。先ず、旧くから馴染みのある、モミジに(おはよう)と、挨拶した。そして、その下に息づき、毎年五月になると、白い花で彩りを放つ、さつきにも。
それから、杉、檜、等の高木達に挨拶しながら階段を使い、斜面を下る。そこには、正面に、真青な空に、両手を大きく拡げ、辺りを優しく包み込むようにして立つ、老クスノキの姿が。
我々は、それぞれの思いを込めて挨拶をした。
私達夫婦は、そこに常設してあるチエアーに。
チャム、ピョン太、ウサコは、各々好きな姿勢で、周りの草場に座る。お蝶は、妻の肩上に。
先ず、私が、(是非、貴方の話を聴きたい、との想いが高じて、こうして、全員揃って押し掛けました。宜しくお願いします)と、話し掛ける。
老クスノキは、(全員揃って、よく来てくれた。
今日は、どんな話をしょうか?)、と嬉しそう。
彼は、さて、何を話そうか、と、考えているのだろう。少し押し黙った後言葉を発し始める。
<今から、遡ること約千年程前のことである。
その時代は、貴族社会の終焉が近い、平安末期。崩壊は、財政基盤の荘園弱体化が原因。
朝廷が荘園の管理人として送り込んだ地頭が、次第に力と富を蓄えて、命令に従わなくなる。
人の世の常であるが、武士に成長した二大勢力間で覇権争いが勃発。平氏が勝ち源氏は敗退。一族はことごとく抹殺。だが、源氏側の血筋は残る。嫡男頼朝は、伊豆に幽閉。然しながら、その身に危険が及ぶことを察知した彼は、僅かなチャンスを生かしてそこを脱出。奇跡的に、船で、房総半島へ逃れたのだ。
上陸してから後も、苦難の連続。何故ならば、この半島も、武士団の殆どが、平家寄りだった。その網をくぐり抜け、空き家に隠れたり、山中を彷徨って、逃避行を続けながら、ヤット安全な場所を見つけて身を隠すことが出来た。
さあ、そこは、いったい、どこであろう。
何を隠そう。それは、ここである。
この、森の中、この森の丘の中腹。
私の横に在った洞窟。
その中だったのだ。・・・・・・・・・・>