大鷹
私は、タローから相談を受けて、自分でも同様の事を考えていたので、その偶然の一致に、少なからず、驚いた。然しながら、ときが流れ、その頃とは時代の趨勢も変化している。はたして、その男は変わってはいないだろうか?
私が、昔を懐かしむように振り返っていると、リスのポン太が、(それは、どのような人物だったのですか?)と、心配そうに語り掛けてきた。
皆は一様に、興味深々と行った素振りで早く聴きたい、との表情を崩さない。私は、少し格好をつけて、一瞬の沈黙。そして、これからは、さも、秘密の大事な事を聞かせるのだというように、声を潜めて、言葉を発し始めた。
<ここから北東方向に東庄市という所が在る。そこは、平安の貴族時代は、東の庄と言われた豊かな荘園だった。代々そこを収めていたのは千葉を名乗る守護一族だった。私の所にタローが相談しにきた時から、役20年程前まで遡る。
その一族の中に、この辺り房総の山々を、血気盛んに駆け回る少年が居た。知ってのとおり、この半島には高い山は無く、丘陵が拡がっている。だから、彼が好んだのは、登山ではなく、今風に言うなら、何日かの食料を用意し、寝袋を携帯しての、トレッキングだろうか。この辺りも行動範囲内。特に、この森がお気に入り。
ここからは、大切な話だが、彼はこの森に生息する総ての生命と心が通じあい、会話が成立。勿論、私とも、話が出来た。それは、彼が、広くて、深い、真の心を持っているという証明。だから、タローから相談を受けた時、託せるのはその男しかいない、と、確信が心を打った。
しかし、少年が、野山を駆け回り楽しんでいたのは、約20年前。風の噂では、彼は、千葉一族の頭領に上り詰めている、と聞く。今は変わったのでは・・一抹の不安が、私の頭をよぎる。だが、私の枝、最上段に止まり、おもむろに、話の一部始終を聞いていた大鷹が、森全体に響き渡る大きな声で、みんなに向かって叫んだ。
★それは、心配無いですよ。彼は、少しも変わっておりません。大きな深く広い自由な心で、我々との会話は、以前と同様に、出来ますよ★