【お話】保奈をつぶやく。
恋よ恋 われ中空に なすな恋。保奈をつぶやき、月明かりにたたずむ。
もらったステキコーデ♪:19
恋よ恋。われ中空に、なすな恋。(恋よ、恋心よ、わたしの心は宙に浮いているようだ。どうか、ぼんやりさせないでくれ)
もとは、世阿弥の能、恋重荷に出てくる歌。「わが中空に」だったものが、のちに「われ中空に」に変化していった。
意味合いも、恋をされた方の美しい女御が後悔と共に、本気の恋などするものではない、人が死ぬこともあるのだから、とつぶやいた言葉だったのが、
恋をする方が悲しみや苦しみと共につぶやく言葉になっていく。
歌舞伎の保奈では、主人公の阿倍保奈(あべのやすな)が恋した相手を失って、気がふれてしまい、野山をさまよう際に、この言葉をつぶやく。
われ中空に、という言葉が、心が宙に浮いているようだ、という、恋しい相手を思う表現であると同時に、
恋人である榊の前を失った保奈が、悲しみにとらわれてうつろになっていくのを暗示しているようでもあり、
なんだかいろいろ考えてしまいます。
ずいぶん昔に読んだ漫画で、登場人物の一人が雅な趣味の男性で、
かなわない恋を思いながら、この言葉をつぶやいていた場面がありました。
表情は微笑んでいたのに、この言葉をつぶやいて月を見上げているのがなぜか、悲し気で、
今でもその場面を覚えています。