蘭々

久遠永遠桜の下で【7】新月の夜の天使【終】

自作小説

新月の夜。月の無い夜の闇に浮かび上がる「クォン・トワ桜」の木の下に来たミカルとマリア。

先の約束通り マリアはミカルが天使になる瞬間に立ち会う。
「最初はね 自分の部屋の中で変身してたの。でも、その度に部屋の中がメチャメチャになっちゃって…。
サキュバスや天使に変身しても大丈夫そうな所をあちこち探したわ。
墓地だと お父さんとお母さんのお墓や墓守のモロクおじいちゃんに迷惑かけちゃうからダメだし、
リンリンゴの森は 変身の余波でリンゴがいっぱい落ちちゃいそうだし 夜になっても人が多いから論外。
「森の泉だったら大丈夫かな?」と思って行ってみたら そこは「ミスティの泉」だったの…!
タケルと声が似てるから ミスティをタケルだと勘違いしちゃって…。
おまけに、ミスティは私が変身する所を隠れて見ていたらしくて、迫られそうになったから飛んで逃げたの…」
「ああ、だから ミスティさんに会った時…」

『マリア!早く行こう!見送りに間に合わなくなる!』
ミカルはマリアの手を引いて 水仙の花の精霊の男「ナルソキッソス」の『ミスティ』には目もくれず、
足早に「ミスティの泉」を立ち去った。

ミカルは 顔を赤くしながらコクリと頷き 俯いた。
「ザギン山のシースー平原なら滅多に人も来ないし そこで変身することに落ち着いたんだけど…」
「…ロキさん、ですかぁ?」
マリアの問いにミカルはコクリと頷いた。
「うん、実は その時にね…、あ…っ!?」
瞬間。ミカルは背中に違和感を感じた。

「そろそろ 始まるわ…!」
ミカルの足元が宙に浮き 周りで風が巻き起こる。
ほのかに光り舞い散るクォン・トワ桜の花びらが 風に引き寄せられ ミカルの周囲でクルクル回る。
ミカルは クォン・トワ桜の花びらと一緒に舞い踊る。
クォン・トワ桜の木の高さまで上がり、ミカルは目を閉じて背中を大きく反らす。
ミカルの背中から天使の翼が生えて、衣服が白を基調とした清楚なドレスに変わる。
天使に変身したミカルは ゆっくりと下へ降りていく。その途中 ロキが突然現れ ミカルを後ろから抱きしめた。
「クォン・トワ桜に降り立つ新月の夜の天使…。キレイだよ、ミカル…」「ロキ…!」
「ミカルさん!」「おっと、ダメだよ?ロキの邪魔しちゃ。マリアは私と遊ぼうよ…」「セトさん!?」
ミカルを助けようにも ロキの双子の兄「セト」に後ろを取られて腕を掴まれ マリアは動けない。

「ミカル、キミは本当に不思議な天使だね…。その時の感情によって翼の色が変わるなんてね…。
今は クォン・トワ桜と同じ桜色。ミカルは今、恋をしているんだね…」
ロキはミカルの背中の翼の間に顔を埋めて 背中の真ん中から翼の付け根にかけて ゆっくりと口づけしていく。
「っ!? あ…っ!」
「桜色の翼の時が 一番感じやすいんだね…。
天使であっても翼の所に性感帯があるあたり、やはり 母親の サキュバスの血の方が濃いんだね…」
「いや…っ!やめて…っ!」
ミカルの頭の中で 昔の記憶がフラッシュバックする…!
昔、同僚だった大天使「ルシフェル」にも 今のロキと同じように 桜色の翼を愛撫された。

『スサノオパーンチ!!』
ロキと同じような声色の掛け声と共に 拳型の気合弾が二つ飛んできて ロキとセトをぶっ飛ばした!
「何か ロキが一人増えてんなぁ…ついでに ぶっ飛ばしちまったけど。…大丈夫か?ミカル」
「タケル!」ミカルは嬉しそうにタケルに駆け寄った。
マリアとセトが居ること以外は いつぞやに助けてもらった時と同じ状況。
ミカルとタケルは 互いに愛を確かめ合う。
「タケル!また会えて嬉しい…!」
「ここに来れば ミカルにまた会えるような気がしてな…。遠い昔からずっと待っていた気さえするよ…」
「ミカルさん、タケルさんにお会いできてよかったですぅ~!」
マリアは嬉しそうに手を合わせて 二人の再会を素直に喜んでいた。
「おのれ!タケル・イズモ!忌々しい!野蛮なスサノオ族め!いつもいつも いいところで…!」起き上がるロキ。
「へぇ~、キミがミカルの想い人の「タケルくん」かぁ~。私とロキと 声がそっくりだね♡」嬉しそうなセト。
「だから、ロキが余計に怖いの…」怯えるミカル。
「安心しろ、ミカル!俺が守ってやる!」「うん。ありがとう、タケル…」
ミカルは タケルの少し後ろへ下がった。
タケルに守られているミカルの嬉しそうな幸せそうな表情を見て セトは真顔に立ち返る。
(ミカルとタケルの二人から ロキとユミコのような前世からの深い絆のようなものを感じる…)
「ロキ…」「セト…!?」セトはロキを後ろから抱きしめながら 耳元で優しく囁いた。
「帰ろう、ロキ。お家でお兄ちゃんがいっぱい慰めてあげるから、ね?」
「セト…っ!……お兄ちゃん…っ!」
セトはロキを連れてひっそりと瞬間移動して立ち去った。マリアも そっと クォン・トワ桜から去る。

今 クォン・トワ桜の下に居るのは、ミカルとタケルの二人だけだ。
二人は 一体 何を語り合っているんだろうか?

ーおわりー