モリバランノスケ

続7・読谷村の小蝶

日記

今日も、本当に気持ちの良い朝を迎えた。空は何処までも澄み渡り、天空高く滑空を続けている大鷹からも、その気持ちの良さが伝わって来るようだ。今、Familyの皆は、ログハウスのベランダに出て、Breakfastを、始めようとしている。

今の今まで、青空の彼方まで縦横無尽に飛び回っていた大鷹のタカオが、滑る様にすぅーと降りてきた。彼も、我がFamilyの一員である。
(おはよう御座います)と、一言挨拶し、席に加わった。Familyの面々も、(おはよう)(オハヨウ)・・
と、優しく言葉を返して、迎え入れる。そして
、各々は、思い思いにBreakfastを楽しんでいる。

談笑Timeが、始まった。今朝は、何と言っても、時の人である、タカオに話が向けられた。それは、(あの空を飛べたら、どんなに気持ちが良いだろう!)と言う、皆の気持ちの総意でもある。
しかし、小蝶は、その話の輪には加わらずに、無念無想の表情。どうやら、昨夜も見た、夢の事に、想いを巡らせているようである。

⚪所は北の国。季節は初夏。小蝶は、白樺、楢
、コブシ、などに覆われたトンネルの様な小道を、歩いている。小枝、中枝、大枝、樹間からは、柔らかな陽光が射し込んでくる。(なんと言う、爽やかな事か!)と、心で、呟いている。

樹木のトンネルを抜けると、視界が開け、そこには、牧場が拡がっている。路の左には教会があり、右側には、牧場のオーナーの住居がる。牧草地には、のんびりとクロバーをはむ数頭の牛の姿を、遠景出来た。

路の傍らで、三人兄弟が、キャッチボールをしている。長男が投手、二男が捕手、三男が打者。小蝶は、立ち止まって、名Playerである、彼等の動きを眺めている。(一緒に、楽しみませんか?)と、長男が、小蝶に声を掛ける。小蝶は、
(入っても良いんですか!)と、返事をして、外野の守備に着いた。

その時、子供達の家、玄関のドアが開き、母親の姿が。そして、(食事ですよ!)との声が響く。

兄 (一緒に、どうですか?)
蝶 (通りすがりの、わたしが?)
次 (遠慮なさらずに、どうぞどうぞ!)

小蝶は、最初は、どうしょうかな、と、迷っていた。が、三兄弟の後につい行く。そして、牧場オーナーの住宅、ログハウスの中に、招かれた。天井が高く、穏やかな寛ぎの空間が在る。
BGMで、程良い音量の、モーツアルトのピアノ協奏曲が流れている。Tableには、Lunchが準備されている。そして、急ごしらえの小蝶の席も。

兄弟の母が、(何処から、いらしたの?)と、小蝶に言葉を掛ける。その時、小蝶は、彼女の声を聞きながら、(もしや、この人は、母親のお蝶!)と、そんな気が。その思いで、食事も喉を通らない。兄弟の母親は、そうとは気付いていない様子。その質問を、皮切りに、皆の間に、深く濃い会話が拡がる気配である。先ず、小蝶が話し始めた。

○私は、沖縄県読谷村から参りました。ここは、北海島勇払郡に在る酪農地帯ですよね。
ここまで、銀河Expressに乗って来たのです。○

兄弟の母は、とても懐かしいな〜と言う表情で、小蝶に言葉を返した。

○私、学生時代に、沖縄県の那覇で熱帯植物(コーヒー)に付いて研究していたの・・・・・・。所で、貴女、今夜ここに泊まりませんか?○

小蝶は、(とても温かいお言葉、有難うございます)と、前置きして、次の様に言葉を紡いだ。

○牧場に沿って、森の中を進むと、沼が在りますよね。午後3時に、沼ノ端に、銀河Expressが、停車します。それに乗らなければなりません○

それからは、時間を惜しむかのように、話が弾んた。

兄弟の母は、別れ際に、こう自問している。

○そうではないか、考えていたけれど、この子は小蝶ではないかしら?。何処か似ている!○

小蝶は、後ろ髪を引かれる思いで、ログハウスを後にする。そして、牧場から離れると、再び森の中を縫う様にして続く小道を進む。腕時計を確かめると、午後3時15分前。急がねば!。歩く速度を速める。

沼ノ端に着いたのは定刻の5分前。駅長である楢の枯木に、読谷村の駅長シキミが発行した、ここまでの往復キップを見せる。神妙な面持ちで検印する楢の枯木。その時、空が二つに割れ、銀河Expressが、降りてきた。沼の水面に、生ずる小波。そこから、座席が、こちらに向かい、スルスルと延びて来る。名残惜しげに、乗り込む小蝶。

その時、勇払原野を彩る、白樺、楢、柏、桑、山葡萄、などの樹木達が、サラサラと音を立てて揺れた。真赤な実をつけた、桑木の茂みから、愛馬バタフライに乗ったお蝶の姿が。銀河Expressに乗り込もうとする、小蝶に叫んだのだ。

○私は、確信しましたよ。間違いありません。貴女は、小蝶ですね○

○苦しい事があり、絶望の淵に立たされた時、必ず、私を思い出すのです。私は、常に貴女の側にいますからね○

○私達が、存在しているのは、思(魂)いの世界。そのことを忘れずにね。常に、深く広い処で、私達は共にいます。それが、生きる事なの!○

小蝶も叫ぶ。

○そうですよ。お母さんも、お元気で!○

一瞬、その時、辺りが静かに。スポットライトを当てたように、光り輝く銀河Express。出発時のメロディー(灯し火)が、沼の水面に、小波の波紋の様に拡がってゆく。演奏は、沼に息づく、フナ、ウグイ、カラス貝、ジュンサイ、等の水中生物達だ。

その時、小さな船が、岸辺を離れてる。櫓を漕ぐのは長男。船先で進路を定める次男。舵を取るのは三男。(灯火)を合唱する歌声が響き渡る。長男は高音、次男が低音、三男は中音の、3部合衆である。

その音楽と歌声に見送られ、小蝶を乗せた銀河Expressは、空の彼方に、吸い込まれた。

小蝶は、窓際の席に座る。特に、理由は無い。
何処の席に座ろうと、自由である。それに、中の客は、小蝶唯一人。機長が、挨拶に来る。

長 (旅は、如何でしたか?)
小 (とても、良い想い出深い旅に成りました)
長 (どうぞ、銀河Expressの乗り心地、ご堪能を)

それから、機内サービスのワゴンが回っていた。ウエートレスから、声を掛けられる。

ウ (お飲み物は、何にいたしましょう?)

小蝶は、先程から、少し、喉の渇きを覚えていたので、(Waterをお願いします)と、所望した。

そして、車窓から、そこに繰り広げられる銀河の世界に目を奪われる。川があり、橋があり、丘があり、村があり、森がある。スター達だ。

それから、牧場が在る。オーナーのログハウスの中では、Familyが楽しげに語らう。父親の光様
、母親のお蝶、三人の男子。と、女子の小蝶。

夜空に、一粒の火の玉が上がる。小蝶は、(あれは、流れ星それとも花火)と、と呟く。が、違う事に気づく。それは、東から西へ、ミサイル砲。その下で水と食料を求めて喘ぎ苦しみ、瓦礫の中を逃げ惑う生命の群々。彼らは、絶滅危惧種?。

銀河Expressは、臨時停車。乗り込んで来たのは
負傷兵と避難民。
              ・・・・・・⚪

昨夜の夢を巡っていた小蝶は、静かに目を見開き、我に返った。

周りには、先程と変わらず、タカオを中心として、皆の談笑の輪に花が咲いている。