アーシャンが見つけたのは、水晶の塊だった。
透明度の高いピンク色で、大人の手の指ほどの大きさの水晶がその岩のくぼみにいくつかかたまって密生していた。

おれ、知ってるぜ。。
これ、町で売ったらすごい金になる。去年、父ちゃんたちがピンク水晶で儲けたって話してるのを聞いたんだ。

と、話したのは、ペスカトーレだった。

町にはトレジャーハンターと呼ばれる男たちがいて、ペスカトーレの父親もその一人だった。
トレジャーハンターたちは洞窟を探検して、主に水晶を取って宝石商に売って生計を立てていた。
中でもこの地方でしか取れないピンクの水晶は特に貴重で高値で売れた。

今、トノスカたちが見ている水晶はそれほど大きなものではないが、それでもかなりの高値になるはずだった。

ブルーが言った。

売っちまおうぜ。

しかし、トノスカは反対した。

いや、これはそのままにしとくんだ。この洞窟はおれたちだけの秘密の場所だ。もし、この水晶を売ったら、この洞窟は大人たちにバレて、すぐに大勢のトレジャーハンターたちがやってくるぜ。そうしたら、おれたちを立ち入り禁止にするに決まってる。
それにこの水晶はこの洞窟の守り神さ。
もし、おれたちが大人になって、この中の誰かがどうしても困ったことがあったら、この水晶を少し拝借して金に返させてもらおうぜ。
これは、おれたちだけの秘密の宝物だ。

マカとアーシャンとペスカトーレはトノスカの提案に賛成した。
ブルーはその提案に不満そうだったが、珍しいことに、おとなしく、わかったぜ。と、同意した。

5人は、トノスカが持っていたナイフでそれぞれの薬指の腹をほんの少しだけ切って握手して、死ぬまで絶対に誰にも話さないことを誓った。
それは町の男たちが最も重要な約束をするときの昔からのやり方だった。
血の約束を破ったものは、男として認められない恥知らずとして、この町で一番軽蔑された。
少年たちは生まれて初めて自分の指を自分で切ることが怖かったし、誰も血が出るほどまでは切ることはできずにほんのわずかに薄皮を切っただけだったけど、それでも少年たちにとっては最も大切な約束となったし、血の約束が出来たことが一人前の男になったようで誇らしかった。
こうして、その洞窟と水晶は仲間たちの最大の秘密となった。



しかし、次の日曜日にはもうすでに水晶は無くなってしまっていた。

日曜日の朝、トノスカ、マカ、アーシャン、ペスカトーレの四人で洞窟へ改めて探検に行った。
ブルーは朝、家に誘いに行くと、気分が乗らない。と言って、来なかった。
鍾乳洞に入ると、岩のくぼみにあったはずの水晶の塊が根こそぎ無くなっていたのだ。

4人はすぐに、その日の朝、洞窟探検に誘いに行ったときのブルーの様子を思い出した。
ブルーが家の中を隠すように少ししか開けなかった扉の奥にはピカピカの黒いバイクがあったのを4人は見ていた。
その当時はまだバイクなど珍しく、馬にのるのが当たり前の時代だった。
ましてや、ひどいアルコール依存症で教会からの保護を受けて生活している母親があんなバイクを買うとは思えなかった。
ブルーに父親はいなかった。


トノスカは言った。

あの野郎！血の約束を破りやがった！！

マカも言った。

ああ、今度こそやつの裏切りは許せねえ！！

ペスカトーレも言った。

ああ！もうあいつなんか仲間じゃねえよ！今度ばかりはそうだろ！？アーシャン！？

しかし、アーシャンだけは同意しなかった。

まだブルーが盗んだって決まったわけじゃないさ。他の誰かがこの場所を嗅ぎつけたのかも知れないよ。

しかし、今度ばかりはトノスカたちもアーシャンの優しい意見を認めるわけにはいかなかった。

結局、アーシャンもしぶしぶブルーを仲間から外すことに同意した。
しかし、いずれにしてもブルーはもうトノスカたちの仲間でいるつもりは無かったのだ。ブルーは水晶を見つけたその時から仲間を裏切って水晶を独り占めすることに決めていた。

トノスカたちは洞窟から町へ戻るとすぐにブルーの家に行った。
アーシャンだけは今日はブルーに会わない方がいい。と反対したけど、トノスカたちは絶対に会いに行くと言って聞かなかった。
トノスカもマカもペスカトーレも、血の約束を破られたことにすごく怒っていた。
特にトノスカは顔を真っ赤にして激怒していた。
アーシャンは大変なことになってしまうと心配して、みんなについてブルーの家に行った。