どんぐりやボタンとか

ケニー

おれはよく浜辺や森の中、あるいは道端などで、落ちてるものを拾う。例えば、どんぐり、ボタン、貝殻、石、ちびた鉛筆、鳥の羽根、何かの部品、錆びた釘、などなど、ちょっと自分のセンサーに引っかかるものなら何でも。そして、それをコレクトして、部屋の棚の中にしまってある。

そんなふうに集まった自分の棚の中にある記憶や思い出、もしくは、新しい体験や、これからしたいことなんかをみなさんにシェアするブログです。

トノスカとマカ 6

自作小説

ブルーの家から外に出た4人は何も言わずに歩いた。
コーヒーショップの前を通りかかったとき、ペスカトーレが遠慮がちに言った。

なぁ、昼飯食わないか?

マカが言った。

いいな、おれも腹減ったぜ。
なあ、みんな朝から何も食ってねえだろ?

トノスカとアーシャンはふたりの問いかけに答えずに黙っていた。
トノスカはギラギラした目でまだブルーの家の方向を睨んでいた。アーシャンはうつむいて突っ立っていた。だけど、マカとペスカトーレが二人の肩を組んで、行こうぜ。と言いながらコーヒーショップへ入った。

今日はおれのおごりだぜ。

席に着くと、ペスカトーレが言った。
ペスカトーレはときどき父親の手伝いをしてアルバイト賃をもらっていたから、他の子たちより少し金を持っていた。

ペスカトーレは、みんなオムレツでいいか?と聞いて、オムレツを4つ注文した。
ここのオムレツは安いけど、中にベーコンやポテト、コーン、玉ねぎが入っていてバターもふんだんに使われており、トロトロの半熟の焼き加減もちょっとしたものだった。
トノスカたちはときどきお金を持ってるときはここでランチを食べた。
オムレツが届いて、みんな何も言わずに食べ始めた。
あたたかいオムレツを食べていると、トノスカは少しずついつもの落ち着いた目に戻っていった。
アーシャンだけがオムレツに手をつけずにうつむいて座っていた。
アーシャンは泣いていた。

隣に座っていたマカはアーシャンの肩に手を置いて言った。

おまえはよくやったよ。

ペスカトーレも言った。

ああ、たいしたもんだぜ。あのブルーにケンカ売るなんてな!
アーシャンが部屋に入った時のあいつの顔ったら、見ものだったぜ!

トノスカはようやく落ち着いてきたようで、アーシャンに言った。

アーシャン、すまなかったよ。
おれがあいつと話したらひどいことになると思ったんだろう?
その通りだよ。
おれは今日、あいつを許すつもりは無かったし、あいつも本気だった。
おれが話してたら、ただのケンカじゃすまなかっただろうよ。
アーシャン、ありがとうな。

アーシャンは顔をあげて、みんなを見た。

なあ、みんな、ぼくはやっぱり腰抜けかい?ブルーが立ち上がったとき、本当はとても怖くて逃げたかったんだ。。。

トノスカが言った。

なあ、アーシャン。
おまえは腰抜けなんかじゃないさ。
自分よりずっとでかいやつにはっきりと卑怯者って言ってやったんだ。
勇気のあるやつさ。

マカが言った。

ああ、腰抜けはブルーのほうだぜ。あいつは自分より体が小さいやつにしかケンカを売らない。
それに、いつも素手じゃケンカしないしな。

ペスカトーレも言った。

ああ、そうさ。
いつだったか、おれとトノスカとブルーで夜に教会の前で隣町の高等部のやつらに絡まれたとき、やつだけ家に逃げ帰ったんだ。
あとで聞いたら、逃げたんじゃねえよ!はらが痛くなっただけだぜ!!って、必死になって言い訳してやがった。

ペスカトーレはブルーを馬鹿にしたように、ブルーのものまねをしながら、もう一度言った。

はらがよ~う、痛くなっただけだぜえ~~!!

ペスカトーレはブルーの少ししゃくれたあごを強調して、思い切りあごをしゃくれさせながら、すっとんきょうな女の子みたいな声を出したもんだから、トノスカとマカは大笑いして、テーブルをバンバン叩いた。

ペスカトーレはウケたもんだから調子に乗って、何度も繰り返した。

はらがあ~、いてえよ~ぉう、おかあちゃぁ~ん!酒飲んでねえで病院に連れてってくれよ~ぉう!!

アル中の母親まで出てきたので、トノスカとマカは爆発したように大笑いして、腹を抱えてた。

当時の少年たちの最高に相手を馬鹿にする常套手段はいつも決まって母親のことを言った。
母親のことを言うのは一番下品で強烈な冗談なのだ。それさえ言えば、誰だってほとんどの場合、激怒してケンカになった。
トノスカたちの間で母親を使った冗談を言うのは、ブルーだけだった。
ブルー以外の4人は母親のことを言う冗談が卑怯に思えて、好きじゃなかったし、言ったことが無かった。
だからこそ、いつも誰かの母親のことを言うブルーのことを ペスカトーレが逆に母親について言ったのが痛快な皮肉だったのだ。
ペスカトーレなりの精一杯の励ましのつもりだった。

すると、コーヒーショップのおやじが奥から出てきて怒鳴った。

うるせえぞ!!ガキども!
騒ぐなら出ていけ!!

トノスカとマカはそれでも笑いが止まらなくて、ひいひい涙を流しながら、おやじに謝った。

ごめんよ、おやっさん!
笑いが止まんねえんだ!
こいつが最高に傑作なことを言ったからさ!!
ごめんよ!すぐに出ていくぜ!

そして、ペスカトーレが店のおやじに金を払うと、笑いながら店を出て、外でもトノスカとマカとペスカトーレは涙を流してしばらく笑っていた。

あー、可笑しかったなあ!

そう言って、涙をぬぐいながら、マカはアーシャンを見た。

アーシャンは、微笑みながら、言った。

みんな、ありがとう。

すると、ペスカトーレが言った。

そうさ、あんなやつ、笑い飛ばしちゃえばいいんだ!!

ペスカトーレの言葉に、アーシャンもトノスカもマカも、その通りだ。と、思った。


。。。。。


たりとも秘密の洞窟に向かって歩きながら、12歳のその日のことを思い出していた。

それからも、人を裏切り続け、卑怯に世の中を渡ってきたブルーはついに先週殺されたのだ。
あの日以来、トノスカもマカもブルーとは会ったことが無かった。
町でブルーを見かけても声をかけなかったし、ブルーのほうもトノスカたちと会うのを避けた。
噂では、それから2年後の16くらいでブルーはCCBに入ったけど、1年も経たないうちに追い出されたようだった。ブルーはギャングにすらなれなかったのだ。
それからブルーはポカの町を出て、何年もいろんな町を転々と渡り歩きながら、詐欺まがいの商売や盗みをして生きていたようだった。そして、先月、ブルーがポカの町に戻ってきて、エブラハムをバーで殺してステーキのレシピを使って大金を手に入れようとして、自分も先週殺されたのだ。
ステーキのレシピはブルーがどこかに隠したのだ。

トノスカとマカは、アーシャンとペスカトーレとは今でもその友情は続いていた。

  
アーシャンは中等部になって、徒競走クラブに入ると、あっという間に徒競走のスター選手になった。
アーシャン自身も知らなかったけど、アーシャンの足腰の強さは並外れていたのだ。
もし、あのときブルーのみぞおちを蹴っ飛ばしていたら、あっという間に勝負が決まっていただろう。
どうりで、ブルーに殴りかかろうとしたトノスカを簡単に押し戻せたわけだ。

アーシャンは高等部でも徒競走で一番であり続けた。
その頃になると、アーシャンは練習と試合に忙しく、トノスカたちにに会うことは無くなっていった。
その後、アーシャンは高等部の卒業記念試合に出場して、1位を取ると、あっさり徒競走をやめた。
アーシャンは高等部を卒業すると、教師の資格を得るために大学へ行き、その後、子供の頃から夢だったという教師になったのだ。

その理由が驚きのものだった。
ブルーのような少年を立ち直らせてやりたい。と言うのだ。
あの事件のあと、アーシャンだけはブルーのことを怒っていなかったのだ。
アーシャンはキースランドの中等部で教師の職を見つけて、引っ越した。たまにポカの町に帰ってくると、決まってトノスカたちと会って酒を飲んだ。