どんぐりやボタンとか

ケニー

おれはよく浜辺や森の中、あるいは道端などで、落ちてるものを拾う。例えば、どんぐり、ボタン、貝殻、石、ちびた鉛筆、鳥の羽根、何かの部品、錆びた釘、などなど、ちょっと自分のセンサーに引っかかるものなら何でも。そして、それをコレクトして、部屋の棚の中にしまってある。

そんなふうに集まった自分の棚の中にある記憶や思い出、もしくは、新しい体験や、これからしたいことなんかをみなさんにシェアするブログです。

トノスカとマカ 7

自作小説

ペスカトーレは高等部になったとき、CCBのやつらに父親を殺された。父親のトレジャーハンターの仕事がうまく行きすぎていたのだ。
父親の見つけてくるピンク水晶は程度の良いものが多く、大儲けしていた。それに目をつけたCCBのやつらが自分たちの町で水晶を取らせてやってるんだから売り上げから8割の分け前をよこせと脅してきた。実際はポカの町で水晶を取ってるわけではなくて、馬車で渓谷や山奥に遠征して何日も泊まり込みで水晶取りをしていたし、CCBにむちゃくちゃな要求をペスカトーレの父親は何度も突っぱねた。
すると、ある日、ペスカトーレの家に家族の留守中にCCBのチンピラたちが押し入って、家の中を荒らした。
父親が水晶の在り方を示す地図やメモでも持ってると勘違いし、それを奪いに来たのだ。
ところが、実際はそんなメモなんか無くて、渓谷や山や洞窟の情報はすべて父親の頭の中だった。
偶然、その時に帰って来た父親がチンピラたちを止めに入ると、父親の頭に銃を突きつけてメモの在り方を聞こうとしたチンピラは、そんなものは無い!と言う父親の言うことを信じず怒りにまかせてそのまま撃ってしまったのだ。
父親を殺してしまったチンピラたちはあわててすぐにペスカトーレの家から逃げていった。
当時、殺人罪は即刻死刑だったのだ。
父親を殺されたペスカトーレは狂ったように怒り、騒ぎを聞きつけて荒らされた家に来てくれていたトノスカとマカの制止を振り切って、CCBのアジトへ一人で乗り込もうとした。
トノスカとマカと、近所のおやじたちもみんなで暴れるペスカトーレをなんとか押さえつけると、ペスカトーレは号泣した。
ペスカトーレは父親を深く愛し、尊敬していた。
トノスカもマカも、ペスカトーレに何と言ってやればいいのか、わからなかった。何を言っても、もうペスカトーレのおやじさんは戻ってこないのだ。

ペスカトーレは高等部を卒業すると、母親と共に隣の国へ行った。
隣の国の首都、アストーレという街はポカよりもずっと大きく都会だった。
二人にとって父親が殺された家に住み続けることがとても辛く、どこか遠くへ行こうと決めたのだった。
当時、隣の国までの馬車旅はとても金のかかるものだった。
でも、父親が残してくれた水晶で稼いだ金は莫大な額だった。
父親はCCBに脅されていたころ、遺書を書いてそれをランスカの町に住む信用できるトレジャーハンターの仲間にこっそり渡していた。
おれに何かあったら、これをおれの家族に渡してくれ。と言ってたそうだ。
そこには、父親が貯めている金について書かれていた。
庭の納屋の床のベニヤ板の下に穴があって、その中に大きな金庫が隠してあった。遺書に書かれていた金庫のナンバーを合わせると、中から一生働かなくても生きていけるほどの大金が出てきた。
アストーレへ行ったペスカトーレはもともと好きだった料理を学びたくて、一流のレストランで働いた。ポカの町にいたときには見たこともなかったアストーレの洗練された料理の虜になった。
ペスカトーレはトノスカとマカとアーシャンに度々手紙を出した。
3人もペスカトーレへ手紙を出して近況を報告し合った。
アストーレに移って、4年が経ちペスカトーレが料理人として一人前になったころ、母親が亡くなった。
母親は父親が亡くなってアストーレに引っ越してすぐに体調を崩し、ずっと入院していたのだ。
ペスカトーレはアストーレで一番いい病院を探して母親を入院させたが、病気は悪くなる一方だった。できる限りの最高水準の医者たちに依頼して何度も手術をしたが、一向に容体は回復しなかった。
当時の医学で治すことのできない難しい病だった。
夫を殺されたショックで母親は生きる力を失ってしまっていた。
ペスカトーレは一流のアストーレ料理が作れるようになると、一度だけ自分の働いてるレストランに母親を招待した。
そのころはもう、母親はフルコースを食べられるだけの体力は無く、ペスカトーレは母親に合わせた食べやすいスープとごく少量のサラダを作った。
アストーレの海で取れるあさりとキャベツのクリームスープと、アストーレの名産の真っ赤なトマトのサラダだった。
ペスカトーレが1週間かけて考えた今の母親が食べることのできる最高の料理だった。
ペスカトーレの母親はスープとサラダをきれいに食べ終えると微笑んで、ペスカトーレに言った。

あなたは優しい子よ。
こんなに美味しいものを食べたのは私の人生ではじめてだわ。
世界で一番の誇り高き息子。
ありがとう、私の可愛い息子。

母親はそれから間も無く亡くなった。

ペスカトーレは母親が亡くなったのを機に、ポカの町に戻ってきた。
母親の入院費や手術費用は莫大な金額で、父親の残してくれた金が無くなった。母親が病気になった時、ペスカトーレは父親の残してくれた金はすべて母親の治療費に使うつもりでいたのだ。
アストーレで最高の病院に母親を入れ、新しい治療薬や最高の医者たちの手術も受けさせた。金に糸目はつけなかった。
しかし、ペスカトーレは自分の生活を切り詰めてレストランでの収入を貯金していた。

ペスカトーレはレストランの収入で貯めた金を元にポカの町で小さなレストランをはじめた。
レストランの名前はアストーレの言葉で家族を意味する「ケチャ」に決めた。
アストーレで学んだ料理を大衆料理にアレンジしたものをメニューに揃えた。
そして、あさりとキャベツのクリームスープと真っ赤なトマトのサラダもメニューに加えた。
もちろん、ポカの町のコーヒーショップのオムレツもメニューに加えた。
ペスカトーレはコーヒーショップのおやじにオムレツの作り方を教わりに行ったのだ。
コーヒーショップのおやじは、うちでしょっちゅうオムレツ食ってたあのガキが一人前になりやがってなあ!と、嬉しそうにオムレツの作り方を教えてくれた。

アーシャンがポカの町に帰ってくる度に、4人はよくケチャに集まった。


ブルーが殺されたあと、ケチャで3人で飲んだ時、ペスカトーレが言ってた。

そうだな、ブルーがもしステーキのレシピをどこかに隠したなら、あそこしか無いと思うぜ。
ブルーは内心、おれたちのことを怖がっていたから、鍾乳洞のことを誰にも話して無いはずだぜ。


。。。。。


トノスカとマカは森の中を歩きながらペスカトーレと話したことを思い出していた。
そして、ストロベリーのやつらがこの森で探し物をしているところを見た以上、ブルーがこの森の秘密の鍾乳洞にレシピを隠したことは確実だった。
ブルーはさっさとレシピの在り処をはいてしまえば殺されずに済んだものを、大金を生み出すステーキのレシピを手放すのは死ぬより嫌だったのか。

洞窟の入口に着くと、12歳だったあの時からもう長い間誰も入っていないようで、入口のつる草が濃密に生い茂り、どこに穴があるのか全くわからなくなっていたけど、覚えている洞窟の入口あたりのつる草は誰かが一度かき分けて、また元に戻したような跡があった。
トノスカはマカに言った。

どうする?

どうする?という意味は、もちろんアーシャンとペスカトーレを誘うか?って意味だった。

マカは少し考えてから言った。

そうだな。たぶん、この中にはブルーが隠したステーキのレシピがある。あの二人をややこしいことに巻き込みたくはない。
だけど、あの二人に黙ってるのも気が引けるよな。

ふたりはアーシャンとペスカトーレに話すことにした。