どんぐりやボタンとか

ケニー

おれはよく浜辺や森の中、あるいは道端などで、落ちてるものを拾う。例えば、どんぐり、ボタン、貝殻、石、ちびた鉛筆、鳥の羽根、何かの部品、錆びた釘、などなど、ちょっと自分のセンサーに引っかかるものなら何でも。そして、それをコレクトして、部屋の棚の中にしまってある。

そんなふうに集まった自分の棚の中にある記憶や思い出、もしくは、新しい体験や、これからしたいことなんかをみなさんにシェアするブログです。

トノスカとマカ 8

自作小説

ふたりとも、本当はステーキのレシピなどどうでもよかった。
だけど、また12歳の頃のように洞窟を探検することにワクワクしてた。
しかし、今度の探検で発見するものは水晶では無く、もっと危険なものだ。だから、教師として、料理人として、ちゃんと身を立てているふたりを巻き込みたくない。と思っているのも本当だった。

次の日曜日にアーシャンがポカの町に帰ってきた。
夜の11時、ペスカトーレが店を閉めたあとにケチャに行くと、もうアーシャンは来ていた。
アーシャンはここで夕食も食べたらしい。
2週間ぶりに会ったアーシャンは元気そうだった。

トノスカ、マカ!
元気かい?

アーシャンと握手してふたりが席に着くと、奥のキッチンからペスカトーレがエプロンをしたまま出てきた。キッチンで後片付けをしていたようだ。

おお、みんな集まったか。

ペスカトーレはそう言いながら、他のテーブルの最後の客の皿やグラスを片付けた。

トノスカが、手伝おうか?と言うと、ペスカトーレは、じゃあ、悪いけど、地下のワインセラーから何本か持ってきてくれないか?と言った。

トノスカがワインを持ってくると、ペスカトーレは簡単なつまみになる料理を手早く作って出してくれた。
エスカルゴのガーリックオリーブオイル焼きと、ハマグリのビネガーソース漬けだった。どちらもアストーレのポピュラーな料理だった。

いやあ、今日は客が多くてな、そろそろウエイターでもひとり雇わないといけないな。

ペスカトーレがそう言いながら席につくと、4人は乾杯してワインを飲んだ。
アーシャンの近況やペスカトーレの最近試行錯誤して試作を続けてる新しいメニューの話などをしたあと、アーシャンがトノスカとマカに聞いた。

それで、羊業のほうの調子はどうなんだい?

うん、それがな、こないだ森で羊狩りをしているとき、ストロベリーのやつらを見たんだよ。

トノスカはストロベリーのやつらが森で探し物をしていたこと。それはきっとブルーが隠したステーキのレシピを探していること。
そして、ステーキのレシピは秘密の鍾乳洞にあると思う。
ということを二人に話した。

アーシャンが聞いた。

それで君たちはストロベリーの連中に見られなかったのか?

ああ、おれたちは木に隠れていたし、ちょうどやつらの背後にいたからな。バレてないはずだぜ。

ペスカトーレが言った。

それで、おまえらステーキを探しに行くつもりか?ステーキを見つけ出して、どうする?

うん、それをさ、二人に相談したいんだよ。
おれとマカはステーキで儲けたいなんて思って無い。レシピを見つけたら、たぶん紙切れに書かれたもんだろうけど、その場で燃やすつもりだ。
ヘロインよりもヤバいドラッグでしかも安く作れるらしいから、そんなものがストロベリーかCCBの手に渡ったらどうなる?
今、キースランドはストロベリーのやつらが売りさばいてるドラッグのせいでヤク中が増えてきてるらしいじゃないか。そうだろう、アーシャン?

アーシャンは黙ってうなずいた。
トノスカは話を続けた。

ペスカトーレはしばらくこの国にいなかったから知らないだろうけどよ、やつらがもともといたドルコの町は今はもう廃墟みたいになっちまってる。やつらがヘロインやらスカッシュってガソリンみたいなドラッグをガキや妊婦にまで売りさばいて、ドルコの町をしゃぶり尽くしたんだ。ひでえのが、妊婦には子供が丈夫になる健康サプリメントと言って売ってたんだ。一度やったら常習になっちまうからよ、常習にさせるほど強いスカッシュを一番最初にタダでやるのが奴らの手だった。それで、ドルコの町からはもう金を絞り取れねえから、キースランドに来たんだよ。キースランドもそろそろ夜出歩くのが危なくなってきてるぜ。

アーシャンにとっても、それは大きな問題だった。
アーシャンが勤める中等部でこないだ一人の子どもがスカッシュを隠し持っているのが発見されたのだ。
スカッシュを吸うと、簡単に空を飛ぶような感覚になれるけど、ガソリンを混ぜて作られているので、常用すると死に至る。

トノスカは続けた。

それにもともとマリファナくらいしか売ってなかったCCBもここ2、3年はヘロインとスカッシュに手を出し始めている。
ただでさえヤバい状況なのに、やつらがステーキを手に入れたらどうなる?

ポカもキースランドも終わりだぜ。
ストロベリーはブルーから森に隠したってことだけは聞き出してるんだ。やつらはステーキを見つけ出すまで森の捜索をやめないぜ。蛇みたいにしつこいやつらだ。
そにうちCCBだって、ストロベリーが森を探してるって気づくさ。やつらがあの洞窟を見つけるのは時間の問題だ。

ペスカトーレとアーシャンは黙って聞いていた。

二人とも、どう思う?

トノスカは聞いた。

二人はじっと考えてから、ペスカトーレが口を開いた。

しょうがねえな。おれも行くぜ。
なあ、アーシャン。

アーシャンが言った。

うん、ぼくもキースランドで教師になってからはじめてあの町のことを考えるようになった。
4年前にストロベリーが来てから、キースランドはどんどん悪くなってる。
キースランドをロスコが仕切ってたときはまだ町の人たちには気概があったんだ。
でも、ストロベリーはロスコみたいに甘いもんじゃない。
やつらは悪魔みたいに町を蝕んでるよ。

いいか、みんなわかっておいてほしい。
ステーキをやつらより先に見つけ出して、レシピを燃やしてしまうっていうのは、やつらにとってコケにされたってことだ。
もしそれを気づかれたら、4人ともただじゃすまない。

キースランドの問題はぼくの問題でもあるんだ。
トノスカ、ぼくひとりで洞窟に行かせてくれないか?

アーシャンは12歳のころから変わっていなかった。
しかし、変わってないのは他の3人も同じだった。

はっ!何をつまんねえこと言ってんだ?アーシャン!
おまえひとりで行って、ブルーみてえにステーキを売りさばいちまうつもりだろう!?
そんなことさせねえぜ、アーシャン!

ペスカトーレが笑いながら言った。
アーシャンが自分たちを危険にさらしたくなくて言ってることをわかった上での冗談だった。

マカも言った。

ペスカトーレの言うとおりだぜ、アーシャン。おれたちは正義の味方なんかじゃないさ。だけど、いつだって気に入らないやつらには一泡吹かせてやる。
お前ひとりにそんなことさせないぜ。

トノスカも言った。

よし、じゃあ、決まりだ。
アーシャン、悪いけど、おまえひとりでは行けないぜ。

アーシャンは言った。

そうだな、君たちがぼくひとりで行かせるわけがないな。
わかった。
ストロベリーとCCBのやつらに一泡吹かせてやろう。

ペスカトーレが言った。

へへ、久しぶりにワクワクするぜ!いつにする?早い方がいいよな。ちんたらしてたら、やつらに先に見つけられちまう。

4人は次の日の朝に早速洞窟に行くことに決めた。
それから、ペスカトーレのくだらない冗談に笑いながら酒を飲んだ。

酔っ払ったペスカトーレが急に立ち上がって、キッチンへ入って行った。
すぐに戻ってくると、手にはナイフを持っていた。

おい、お前ら、明日のことはおれたちだけの秘密だよな?

ペスカトーレはそう言って、薬指の腹を少し切った。

トノスカもペスカトーレからナイフを受け取ると自分の薬指を切った。
マカとアーシャンも薬指の先を切ると、4人は15年ぶりの血の約束をかわした。