モリバランノスケ

高松山の小蝶

日記

たった今、小蝶とクワオは、銀河Expressを、降りた所である。ここの駅は、東京西部の小高い岡の上にある、戦国時代の城址。連日の猛暑だが、山上であり、身体を通り抜ける微風が心地良い。二人は、黒松の葉陰で一休みしている。

そこからは、少し雲が浮かぶ青空の下、遙かなる丘陵地が見渡せた。彼等の視線は、連なる丹沢山系の山並みに釘付け。その存在感に魅了されて、じっと見詰めたままだ。辺りは、静寂に包まれている。時折、聴こえてくるのは、微風が織りなす、樹木達の葉擦れの音。心くつろぐ雰囲気を味わつている二人に、黒松が語り掛けてきた。

⚪空が限りなく澄んでいる冬の日には、ここからの眺めは、格別だ。屏風のように聯なる、丹沢の山並みを従えて、主の様に君臨する真白き富士。それは、見事なものだよ!。 残念ながら、今日は、空が少し霞んでいて視えないが⚪

思わず、小蝶は、黒松の木に語り掛けていた。

蝶 (本当に、気持が良い所。心が洗われます)
黒 (あまり見掛けない顔だが、何処から?)
蝶 (私の生まれ故郷南房総から、沖縄宮古島、
  読谷村、大分県日田、香川小豆島、岐阜県
  郡上、静岡県浜名、日本橋浜町を経由して
  、先程、ここ山の駅に着いたばかりです。
  交通の便は、銀河Expressのお世話に)
黒 (隨分の長旅。どうして又)
蝶 (私は、旅をする蝶、アサギマダラの小蝶と
  申します。旅をするのが仕事です) 

そして、クワオを、(私のボディーガード。大クワガタのクワオです)
と、紹介した。

更に続けて、(この辺り、Breakfastを取る所は、ないでしょうか?)と、尋ねる。黒松は、(その方面は、私は誠に疎い)と、言い、(私の下にいる、地蔵に聞くと良い)と、勧める。彼等は、黒松の枝から降り、地蔵の肩に止まり話し始めた。

小 (おはよう御座います)
地 (おはよう。そなた達の話は、下から聴いて
  いた。Breakfastを取りたいだって?。それ
  なら良い所を教えてあげよう)
小 (有難うございます。私は、アサギマダラの
  小蝶と申します)
ク (私は、大クワガタのクワオです)
地 (私は、地蔵の五十蔵と、申す者)

五十蔵は、自らの指を使い、辺りに響き渡る様に、(ピィー)と、一吹きする。すると、大空高く気持ち良さそうに旋回していた大鷹が、一気に急降下して来て、五十蔵の前に止まった。小蝶は、その姿を見て、びっくり仰天!。何故なら
、南房総でFamilyの一人だった、タカオではないか!。同様に、彼も、驚いた様子である。

五十蔵はタカオに、小蝶とクワオを紹介する。そして、ここ高松山の南斜面にあるログハウスに、二人を案内する様に、と言葉を添えた。

案内の道すがら、タカオは、事の経緯を説明して聞かせる。

○南房総のログハウスに住む、御主人と奥さんの本宅は、高松山の麓に在る。南房総は別荘。
最近は、あちらでの生活が主に成っているが、元々は半々の生活STYLEだった。こちらで生活する時は、都合の良いメンバーが参加。今回は、私の他、チヤム、ウサコが帯同している。○

楓、椿、コブシ等などの林を抜けながら、小蝶とクワオは、タカオの話を、驚きの表情を見せて、聞いている。そうこうする内、ログハウスに到着する。タカオが、(ただいま!)と、ドアを開け、(小蝶を連れてきたよ)と、叫んだ。

その呼び掛けに、御主人、奥さん、チヤム、そして、ウサコが、玄関に駆け寄って来る。皆、
口々に、(元気だった!。どうして今、ここに?)
と、言葉をかける。タカオは、(仔細は後で。先ずは、Breakfastを一緒に)と、奥さんに懇願する。

小蝶とクワオは、Familyの面々と共に、Tableについて、Breakfastを楽しみ始める。二人の前に置かれた皿には、多摩地方の豊かな山野草から採取された蜂蜜が盛られている。小蝶は、久方振りのFamilyとの食事に歓びを隠しきれない。

Breakfastが終わり、談笑Timeが始まる。

皆の気持ちは、小蝶が南房総を出てから今日まで、どうしていたのかを知りたいとの一点である。先ず、問い掛けたのは、ウサコだった。

ウ (今まで、どうしていたの?)

小蝶は、旅の経緯を整理するかの様に、暫し、
沈黙している。そして、徐ろに言葉を発した。

○皆さんご存知のように、銀河Expressで、最初に向かったのは、母の生まれ故郷宮古島です。
母の新たな一面を知る事が出来て、とても有意義でした。そこからは、母の足跡を辿り旅を続けました。沖縄県読谷、大分県日田、瀬戸小豆島、岐阜県郡上、静岡県浜名、日本橋浜町、
そして、今朝、ここ高松山に至りました。

クモ吉は、瀬戸小豆島で、恋に落ちたのです。
そこで出合ったクモ姫と、暮らしています。

こちらのクワオは、縁あって、岐阜県郡上から私のボディーガードをしてくれてます。 ○

周りの皆は、(旅の詳細はどうであれ、無事でよかった!)と、胸を撫で下ろしている様子。

そんな中で、小蝶は、初めて会う老犬と子猫に
(彼等は何者?)と、親しみを込めた眼差しを。

それを知って、ご主人が、小蝶に彼等を紹介。

○彼等は、遊びに来ている、高尾山麓に住む、私の長男Yの愛犬ララと生後間もない子猫クク。今、一時、我が家に遊びに。ククは、半月程前に、隣の公園で、生まれて間もない状態で泣いていたのを、救い出された保護猫。

ララとククは、犬と猫とは思えぬ程、最初から馬があった。

ククはララの母乳を飲んでいる。ララを本当の母親と、又、ククを本当の子供と、考えているのかも知れない。とても、癒やされる光景だ○

ククは、小蝶を向き、話し始めた。

○私は、ククと申します。今、ご主人から話があった様に、大雨の上がった朝に、恩人Yさんに助けられました。私事ですが聞いてください。

あの夜、私の母親は、Yさんの自宅そば、公園の縁に在る側溝の中で出産しました。子は五匹。
その時、線状降水帯が発生し、大雨でした。皆流されてしまいました。助かったのは私だけ。
翌朝、寂しくて、蓋の上で泣いていたのです。

そんな私を、救い出して、Familyの一員にしてくれた。私の名前は、その時、(クク)と泣いていたからだそうです。恩人のYさん、奥様のMさん、長女のAさん、次女のHさん、感謝です。特に私の受入を切望された奥様に、大感謝です。

そして、何より嬉しいことは、ララ様との出会いです。彼女は、家族の皆様に愛されて20年。
かなりの老齢です。然しながら、顔を合わせた最初の時から、私を可愛がってくれています。なんと、授乳までして頂いております。

私は、生まれて直ぐに、母を亡くしました。
これからは、ララ様を母親と思って、生きてまいります。…おかあさん、大好きです……○

ククの話を、じつと聞いていたララは、私も一言と、前置きして、言葉を添える。

○私は、子供を生んだ事も、育てた経験も在りません。ですから、ククが、本当の子供の様で
可愛くて可愛くて、たまりません。この出会いは、神から授けられた、☆幸☆と、考えております。一生の最後、こんな瞬間が在るなんて○

周りの皆から、☆ブラボー☆と歓声が起こる。