ヘルメス

ヘルメス

昔、昔ギリシャにゼウスという神がいました。
その末っ子の名前はヘルメス!
その800代目の子孫が僕ちゃん!
決して嘘八百ではありません。
自由気ままな僕は泥棒や山賊の守り神

桜舞う朝

小説/詩




知らず知らずに歳を重ねるのではなく

ある日突然おじいさんになりたい

孫の誕生によってではなく

見知らぬ子供たちの目の中で

誰も気づかない瞬間に年老いるように

年寄り扱いされるのに抗ってきた肩の力が

そのとき急に抜けて

おじいさんという門をくぐりぬける

桜の咲く小学校の門を

初めて入る子供のように

不思議な物語の始まりのように

赤ちゃんの見開かれた瞳の中で

私は新しく生まれ変わる


人一人が生きてきた傷だらけの歳月を

私に代わって

小さい者たちが優しく忘れてくれる

最初からなにも覚えてはいないよ、と


真新しい老人が

誰よりも早く起きて

何かやることはないかと探していると

そのとき、後ろから声がかかる

『おじいちゃん おはよ!』

赤ん坊は少女になってそこに立っている

まだ聞き慣れない 『おじいちゃん!』に

一瞬戸惑いながら振り返る

それは長い間待っていた言葉なのか

今朝目覚めたときから待っていた言葉なのか

思い出せない

分からないままゆっくり微笑む

年寄りの微笑みは長い

少女のお前は待ちきれず

もう姿を消している


取り残された微笑に

桜が舞い落ちる朝だ



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