まどろみ

スリープモード

日記

夜になると、ときどき、心のどこかで音がする。
小さなクリック音のような、静かな断絶。
感情のスイッチが切れる瞬間だ。

怒りも、喜びも、笑い声も、
全部、電源コードを抜かれたみたいに静まる。
世界が少し遠くに下がって、僕だけが残される。
街の灯りがゆっくりと滲んで、空気の温度が曖昧になる。

その夜の僕は、何も欲しくない。
音楽も、会話も、誰かの優しさも。
ただ、水の底みたいな沈黙の中で、呼吸を整えている。
たぶん、それが僕なりの修復方法なのだと思う。

朝になれば、世界はまた動き出す。
感情の回路も、自然に通電する。
コーヒーの香りに少し安心して、
通り過ぎる風に、ほんの少しだけ笑ってみる。

けれど、その夜のことはいつも覚えている。
何も感じなかった時間の中に、
確かに、僕がいたということを。


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