眠りの森 〜言葉の雫〜

ようこそ。ここは、胸の奥に深く沈んだ悲しみや、消えない寂しさを、一滴の水滴のようにそっと救い上げる場所です。木々が深い影を落とす静寂の森。そこは、誰にも見せられない孤独な涙や、言葉にならなかった切ない想いが静かに息づく世界です。独りきりで佇む夜、心に溢れる冷たい雫を、壊れやすいガラス細工のように大切に綴ります。果てしない寂しさに寄り添い、あなたの孤独の影をそっと包み込めますように。静かな痛みを分かち合う、終わらない夜の記録です。

霧に消える

日記

トロンハイムの桟橋に、一人の女が立っていた。
あるいは、それはかつての自分という幻影だったのかもしれない。
アンカレッジの滑走路で置き去りにしてきたはずの、未練という名の重い荷物。
「ここで終わりだ」
言葉は霧に吸い込まれ、波の音に消えていく。
俺たちは、太平洋を越えるあの長い夜を、ただの「隣席の他人」として過ごすべきだった。
アラスカ航空の機体が吐き出した冷たい熱気のように、熱く、そして瞬く間に冷めていく。
彼女の瞳には、北極圏の氷河と同じ、拒絶の輝きがあった。
俺はポケットから、二人の名前が刻まれた古いライターを海へ投げた。
鈍い水音がして、波紋が広がり、そして平穏が戻る。
これが、最後の物語にふさわしい、湿り気のない幕引きだ。
「さよなら」
彼女が背を向けた時、トロンハイムの時計塔が一度だけ鳴った。
それは旅の終わりではなく、他人として生きるための、始まりの合図。
俺はもう、振り返らない。
霧の向こうに消えていく背中を見送ることも、もうしない。
スカンジナビアの厳しい冬が来る前に、俺は新しい孤独を抱きしめ、歩き出す。


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