硝子の涙壺

人生

路地裏のバー、氷の溶ける音だけが
唯一のまともな会話だった
カウンターの隅、琥珀色の液体の隣に
場違いな小さな壺が、街の灯を拒んでいる
「それはなんですか?」
バーテンダーの問いに、俺は火を点けた
安物の煙草の煙が、記憶の輪郭をぼかす
「涙壺(ラクリマトリ)さ。古代の連中が、悲しみを貯めたっていう」
俺の仕事は、誰かの代わりに引導を渡すことだ
だが、落ちた涙まで掃除する術は持ち合わせていない
割れた窓ガラス、アスファルトに散った命
それらをすべて飲み込んで、この小さな容器は黙り込む
バーボンを一口。喉を焼く熱さが心地いい
男の涙は酒に混ぜて飲み干すものだと
誰かが格好をつけた台詞を吐いていたが
溢れそうなこの感情を、飲み干す器グラスが足りない
夜霧が窓を叩く
かつて愛した女の、最後の震える指先が
今もこの壺の底で、冷たく沈んでいるような気がして
俺は最後の一滴を流し込み、席を立つ
「代金はそこに置いておく」
涙壺は、俺の指紋と後悔だけを封じ込めたまま
誰もいないカウンターの上で、冷ややかに光っていた_


#日記広場:人生

  • 眠

    2026/03/08 09:24:45

    > みきさん
        泥を啜る聖者たちへ
    看板の文字が剥げ落ちようと、
    お前の指先が覚えている感触は、誰にも奪えない。
    カルテが差し押さえられ、薬棚が空になっても、
    お前が救い上げた命の重みは、負債にはならない。
    「負け犬」と呼びたきゃ、勝手に呼ぶがいい。
    だが、白衣の皺に染みついた誇りまで、
    奴らは競売にかけることはできない。
    今は、ただ息を潜めて、ナイフを研げ。
    新しい戦場は、ピカピカの廊下じゃないかもしれない。
    路地裏の、雨漏りするような場所かもしれない。
    それでも、お前を待っている奴は必ずいる。
    絶望は、最良の消毒液だ。
    甘っちょろい幻想を、すべて焼き尽くしてくれる。
    生き残ったお前の眼には、
    もう、どんな欺瞞も映らないはずだ。
    顔を上げろ。
    死神を追い返したことのある奴が、
    経営という名の数字に、屈してどうする。
    夜明けはまだ遠い。
    だが、お前の心臓が刻むビートは、
    まだ終わっちゃいない。

  • 眠

    2026/03/08 09:18:52

    > みきさん
      錆びたメス、消えた鼓動
    消毒液の匂いは、とっくに埃に負けていた。
    ロビーの椅子には、誰も座らない影だけが積もっている。
    かつて命を繋いだ白い壁は、
    今や返済不能な絶望を隠すための剥製だ。
    ナースステーションの電話は、もう鳴らない。
    不渡りという名の死刑宣告は、
    どんな外科医の腕でも切り離せなかった。
    診察室に残されたカルテの山は、
    書きかけの墓碑銘に似ている。
    経営という名の病魔は、
    顕微鏡では見えない速さで骨を焼き、
    良心という名の麻酔は、
    現実の痛みを誤魔化すには、あまりに軽すぎた。
    非常口のランプが、血のような赤で瞬いている。
    俺は最後の一服を床で踏み消し、
    重い扉を背中で押した。
    明日にはこの場所も、
    コンクリートの骸(むくろ)に変わる。
    救いなど、最初から在庫切れだったのさ。

  • みき

    みき

    2026/03/08 08:27:43

    おはようございます♥
    いつもありがとうございます。

    職場を変わって1週間が経ちました。おかげさまで滑り出しは順調です。(^^)v
    今まで責任をほぼ一身に負っていたものが、みんなで分散出来るようになって(←これが普通)、重苦しいストレスから解放されています。
    病院によってそれぞれのルールがあるので、それに早く慣れることが今の目標です。
    これは時間をかけてやっていくしかないです。

    お勤めしていた病院が経営破綻。
    ホント、引導を渡された気分です。(>_<)

    まだ寒いといえば寒いのですけれど、凍えるような寒さではなくなりました。
    リアのお庭の木瓜のお花の蕾が膨らんできています。
    今週もよろしくお願いいたします。m(_ _)m