錆びた錨と、遠い汽笛
潮風が、古い傷口をなぞるように吹き抜けていく。
ここは、忘れ去られたガラクタと、行き場を失った記憶が流れ着く終着駅だ。
錆びついた錨が、泥濘の中で重い沈黙を守っている。
ここは、忘れ去られたガラクタと、行き場を失った記憶が流れ着く終着駅だ。
錆びついた錨が、泥濘の中で重い沈黙を守っている。
「みんな、幸せになれ」
そんな言葉、カモメの鳴き声にかき消されてしまうだろう。
防波堤に腰を下ろし、俺は最後の一本の煙草に火をつけた。
湿りきった空気の中で、火種だけが頼りなく赤く爆ぜる。
そんな言葉、カモメの鳴き声にかき消されてしまうだろう。
防波堤に腰を下ろし、俺は最後の一本の煙草に火をつけた。
湿りきった空気の中で、火種だけが頼りなく赤く爆ぜる。
この街に住む連中は、みんな何かを海に捨ててきた。
愛した女の面影か、果たせなかった約束か、それとも自分自身の名前か。
岸壁を叩く波の音は、まるで誰かが許しを請うているようにも聞こえる。
愛した女の面影か、果たせなかった約束か、それとも自分自身の名前か。
岸壁を叩く波の音は、まるで誰かが許しを請うているようにも聞こえる。
だが、あんた。
底の抜けたボートで荒波を漕いできたなら、
せめて今夜、この薄暗い酒場の灯りの下で、
安酒に酔いしれる権利くらいはあるはずだ。
底の抜けたボートで荒波を漕いできたなら、
せめて今夜、この薄暗い酒場の灯りの下で、
安酒に酔いしれる権利くらいはあるはずだ。
凍えた指先でグラスを包み、
自分を裏切った過去さえも、静かに飲み干してやりな。
夜明けの霧が立ち込める頃、
使い古された絶望が、ほんの少しだけ軽くなっていればいい。
自分を裏切った過去さえも、静かに飲み干してやりな。
夜明けの霧が立ち込める頃、
使い古された絶望が、ほんの少しだけ軽くなっていればいい。
沖合で、遠い汽笛が一度だけ鳴った。
それは誰の旅立ちでもなく、
ただ、取り残された者たちへの、不器用な手向け(たむけ)だ。
それは誰の旅立ちでもなく、
ただ、取り残された者たちへの、不器用な手向け(たむけ)だ。
幸せになれ。
呪いのようなこの街で、明日もまた、泥にまみれて生きていくために_
呪いのようなこの街で、明日もまた、泥にまみれて生きていくために_