硝子越しの挽歌
夜の底に、重たい雨が降っていた。
カウンターの隅、氷が溶ける音だけが、
静寂の輪郭をなぞっている。
カウンターの隅、氷が溶ける音だけが、
静寂の輪郭をなぞっている。
背後でドアが開く音がした。
お前の香水の残り香が、
湿った空気と混じり合って、
一瞬、心臓の奥を掠めていった。
お前の香水の残り香が、
湿った空気と混じり合って、
一瞬、心臓の奥を掠めていった。
「もう行くわ」
その一言に、俺は琥珀色の液体を煽る。
引き止める言葉は、
とうの昔に雨樋(あまどい)から流し捨てた。
その一言に、俺は琥珀色の液体を煽る。
引き止める言葉は、
とうの昔に雨樋(あまどい)から流し捨てた。
去る者を追うほど、
俺の足取りは軽くはない。
引き止めて繋ぎ止めるほど、
この街の夜は甘くはない。
俺の足取りは軽くはない。
引き止めて繋ぎ止めるほど、
この街の夜は甘くはない。
お前の背中が闇に消えても、
振り返る必要はないさ。
追いかけないのが、
俺に残された最後の礼儀(マナー)だから。
振り返る必要はないさ。
追いかけないのが、
俺に残された最後の礼儀(マナー)だから。
カチリとライターが鳴り、
紫煙が空虚な輪郭を描く。
さよなら、と言いかける唇を、
煙が優しく塞いでいった_
紫煙が空虚な輪郭を描く。
さよなら、と言いかける唇を、
煙が優しく塞いでいった_