鉄の揺り籠にて_夜行列車

日記

お急ぎのところ、失礼いたします。
当列車は、孤独と闇を運ぶ、ただの鉄の塊に過ぎません。
窓外に広がるのは、誰の目にも留まらぬ、黒い虚無。
お客様が抱えられた、行き場のない過去や、
誰にも言えぬ秘密がございましたら、
どうぞ、その重い荷物とともに、
この狭い寝台へお預けください。
車輪が刻むリズムは、単調なブルース。
通過する駅の灯りは、遠い記憶の残像。
コーヒーは、少し苦めをご用意いたしました。
眠れぬ夜は、煙草の煙に、
過ぎ去りし日の幻影を燻らせるのも、
一興かと存じます。
午前零時、列車は静寂を切り裂き、
目的の地へ向かって、ひた走る。
どうぞ、明日の朝には、
その荷物を、ここに置いていってください。
私は、誰も知らない過去など、
興味はございません。
ただ、お客様が無事に、
新しい場所へ降り立つこと。
それが、私の唯一の仕事です。
それまでは、どうぞごゆっくり。
鉄の揺り籠の中で、
孤独という名の贅沢を、お楽しみください。


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