帰ってきた雨の港2

日記

錆びついた錨(いかり)が、泥濘(ぬかるみ)に沈んでいる。
十年ぶりのこの街は、安物のバーボンのように喉を焼く。
埠頭のクレーンは、巨大な骸骨のように立ち尽くし、
降りしきる雨は、消し忘れた過去のしみを洗おうとしていた。
トレンチコートの襟を立て、
マッチを擦る。
湿った海風が、一瞬の火花を冷たく嘲笑った。
あいつの声も、波の音に飲み込まれて久しい。
約束など、この防波堤に砕ける飛沫(しぶき)よりも脆いものだ。
足元の水たまりに、街灯の鈍い光が浮いている。
それを踏みつけ、俺は影の中へと歩き出す。
帰ってきたのではない。
ただ、行き止まりの先にここがあっただけだ。
港は黙っている。
雨だけが、終わりのない物語を語り続けていた。


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