父の落日
父が、小さくなった。
それは物理的な寸法の問題ではなく、
魂の在庫が、底をつきかけているのだ。
それは物理的な寸法の問題ではなく、
魂の在庫が、底をつきかけているのだ。
「めしは、まだか」
一日に十度も繰り返されるその問いに、
僕はそのたび、はじめて聞くような顔をして、
「さっき食べたばかりじゃないか」と、
おどけた絶望を演じてみせる。
一日に十度も繰り返されるその問いに、
僕はそのたび、はじめて聞くような顔をして、
「さっき食べたばかりじゃないか」と、
おどけた絶望を演じてみせる。
かつて、この男は僕にとっての峻厳な山であった。
いまや、その山は崩れ、
湿った粘土の塊となって、僕の膝に凭れかかっている。
僕は、それを疎ましく思い、
同時に、その重みの中に、
かつて僕が父に求めて得られなかった、
「無垢な甘え」の完成形を見てしまうのだ。
いまや、その山は崩れ、
湿った粘土の塊となって、僕の膝に凭れかかっている。
僕は、それを疎ましく思い、
同時に、その重みの中に、
かつて僕が父に求めて得られなかった、
「無垢な甘え」の完成形を見てしまうのだ。
ああ、介護とは、
復讐の形を借りた、究極の親孝行ではないか。
排泄の世話をしながら、僕は心の中で、
「ざまあみろ、大好きだよ」と、
道化の独白を呟く。
復讐の形を借りた、究極の親孝行ではないか。
排泄の世話をしながら、僕は心の中で、
「ざまあみろ、大好きだよ」と、
道化の独白を呟く。
夜、父の寝息を聞きながら、
僕は自分の手のひらを見つめる。
そこには、老いという名の、
逃げ場のない、しかしどこか甘美な、
一族の呪いが刻まれている。
僕は自分の手のひらを見つめる。
そこには、老いという名の、
逃げ場のない、しかしどこか甘美な、
一族の呪いが刻まれている。
明日もまた、僕は嘘をつくだろう。
「お父さん、明日はいい天気だよ」
本当は、土砂降りの孤独が、
すぐそこまで来ているというのに。
「お父さん、明日はいい天気だよ」
本当は、土砂降りの孤独が、
すぐそこまで来ているというのに。