擦れ違う影4

日記

重い扉を押し開けると、
入れ違いに、一人の女が影を落とした。
濡れたトレンチコート。
伏せられた睫毛の先に、まだ夜の名残がぶら下がっている。
彼女の指先には、
俺が捨ててきたばかりの、あの鉄の臭いがした。
言葉は交わさない。
ただ、肩がかすかに触れた瞬間、
安物の香水の香りが、冷たい朝の空気を震わせる。
それは、かつて俺が書き損じた、
古いラブレターのような匂いだ。
彼女は、俺が座っていたあの椅子に向かうだろう。
まだ温もりの残るテーブルで、
錆びついたレミントンに、次の悲劇を語らせるために。
俺は一度も振り返らず、
灰色の舗道へと、一歩を踏み出す。
この街では、誰かが物語を終えるとき、
別の誰かが、その続きを書き始める。
ただ、それだけのことだ。


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