ゼロの地平、孤高の旋律
視界を遮るものは、何ひとつなかった。
あるのは、見渡す限りの焦土と、黒く燻った絶望の残骸だけだ。
かつて街だった場所は、神がぶちまけた灰皿のように、
ただ無機質な「ゼロ」の地平へと成り果てていた。
あるのは、見渡す限りの焦土と、黒く燻った絶望の残骸だけだ。
かつて街だった場所は、神がぶちまけた灰皿のように、
ただ無機質な「ゼロ」の地平へと成り果てていた。
その焼け野原のど真ん中に、ポツリと、その親子は立っていた。
逃げ場のない陽光の下で、剥き出しになった親子。
煤にまみれてもなお、彼女たちの顔立ちは、
神の残酷な悪戯(いたずら)のように凛としていた。
煤にまみれてもなお、彼女たちの顔立ちは、
神の残酷な悪戯(いたずら)のように凛としていた。
「歌を……歌いますから」
震える唇から漏れたのは、祈りという名の懇願だ。
目当ては、たったひと切れの豆腐。
柔らかく、白く、命を繋ぐために必要な、ささやかな温もり。
目当ては、たったひと切れの豆腐。
柔らかく、白く、命を繋ぐために必要な、ささやかな温もり。
少女が歌い出す。
周りは死に絶えた世界だ。観客は、焼け焦げた電柱と、
物言わぬ骨と化した建物の影だけ。
それでも、彼女は喉を振り絞り、透明な声を「虚無」へと放つ。
周りは死に絶えた世界だ。観客は、焼け焦げた電柱と、
物言わぬ骨と化した建物の影だけ。
それでも、彼女は喉を振り絞り、透明な声を「虚無」へと放つ。
お袋の耳にこびりついたのは、その不条理な美しさだろう。
背景は地獄。演者は聖者のような親子。
報酬は、泥にまみれた一片の食糧。
背景は地獄。演者は聖者のような親子。
報酬は、泥にまみれた一片の食糧。
過酷な世界/状況、奇跡なんて安売りされない。
だが、あの焼け野原で歌を紡いだその一瞬だけは、
死神さえも、彼女たちの美しさに足を止めたはずだ。
だが、あの焼け野原で歌を紡いだその一瞬だけは、
死神さえも、彼女たちの美しさに足を止めたはずだ。
お袋、あんたが見たその景色を、俺もまた、まぶたの裏で追いかける。
焼け野原に響く、豆腐を乞うための美しい歌声。
それは、どんな爆風よりも鋭く、俺の魂を切り裂いていく。
焼け野原に響く、豆腐を乞うための美しい歌声。
それは、どんな爆風よりも鋭く、俺の魂を切り裂いていく。
俺はポッケの小銭を握りしめ、二度と戻らないあの空を仰ぐ。
もう誰も歌う必要のない世界を_
もう誰も歌う必要のない世界を_